第七回「美容医療・エステでトラブルに遭わないために」~消費生活アドバイザーから見た日本社会におけるギャップ~
【美容医療・エステでトラブルに遭わないために】

事例①:美容医療
SNS情報から美容整形クリニックを見つけ来院した。担当医師に顔のシミ取り放題とフェイシャルコースの併用を勧められた。その後係員から施術同意書を渡され、名前と日付を書き施術代約 20万円をクレジットで支払った。 フェイシャルコースの施術後、赤ペンを渡されて、シミを取りたい箇所に印を付けてください、と言われた。目に近い場所のため、担当者にレーザー照射は危険ではないのかと伝えたところ、「コンタクトレンズを装着するので問題ない」といわれ、印を付けた。レーザーによる施術後、目薬と飲み薬を渡され、使用方法と注意事項を聞いた。その直後、目に違和感を覚えた。担当者に伝えたところ、30分くらいでよくなると言われたため、この言葉を信じて帰ってきた。
夕方、目に痛みを感じ、クリニックから渡された目薬を使ったところ、目を開けられないほど痛くなった。クリニックに複数回電話をしたがつながらなかったため、やむを得ず他の病院で治療を受けた。翌日、契約したクリニックに電話して、施術代の返還とともに眼科および皮膚科での治療にかかった費用を支払ってほしいと伝えた。クリニックからは、「施術後両目に痛みを感じたとしても、通常は数日程度で治癒することが多く、施術に問題があったわけではない。このことは施術前に署名してもらった同意書に記載されている通りであり請求は認められない」とのこと。
確かに同意書に注意事項の記載はあったが、軽い痛みや充血がある程度との印象だったし、そもそも注意事項に関して医師から説明はなかったので不満だ。治療費だけでも返金して貰えないか。(30歳代 女性 給与生活者 )
【注 意 点】
- 美容医療は基本的に健康保険の適応がない自由診療です。自由診療の分野では、国内で未承認の治療法や機器を、医師の裁量の範囲で使用することができ、価格も自由です。最先端の医療であっても未承認の場合、安全性や有効性が確認されたものではありません。このため、まれに悪徳な施設や医療事故があるのでご注意ください。
- 美容医療機関の治療行為は科学的に効果がある方法ですが、医師の知識と経験、技術をもって行わないと副作用や健康被害のリスクがある行為です。また治療の中には痛みや術後一定期間腫れたり赤くなったりして人前に出づらくなる期間(ダウンタイムと呼ぶ)があるものもあります。
- インターネット上の口コミ情報、特に口コミサイト上での情報は意図的な書き込みが多いので危険です。実際に診察を受けて医師から説明を受け、治療のリスクやダウンタイムについてしっかり理解したうえで治療を受けること。費用についても、ウェブサイトで公表されている値段と相違ないか確認してください。
- 治療の決断にはある程度の時間をかけ、初診の当日中に施術や契約を強要するような施設では、はっきりと断る勇気を持つことも大切です。医師以外のカウンセラーと称する人間が 診察をして治療法を決定するような医療機関は要注意です。
- 一定の美容医療サービス(下記の解説を参照)のうち、サービスの提供期間が1か月を超え、かつ支払総額が5万円を超えるものは、法定の契約書面を受け取った日を1日目として8日間は無条件で契約の解除(クーリング・オフ)を行うことができるとともに、クーリング・オフ期間の経過後であっても、残りの契約について中途解約を行うことができます。
(★解説:一定の美容医療サービスとは、脱毛、にきび・しみ・そばかす・ほくろ等の除去、肌のしわ・たるみ取り、脂肪の溶解、歯のホワイトニング等について、特定商取引法施行規則で定める方法(例えば、光の照射、薬剤の注射など)によるものとします。
(参照:消費者庁「美容医療を受ける前に確認したい事項と相談窓口について」)
事例② エステサロン
動画投稿サイトで、エステ店の「脱毛の半年間無料トライアル」という広告を見た。無料で脱毛ができると思い、エステ店の予約サイトから無料トライアルに応募した。
予約日にエステ店舗に行き、脱毛方法や契約内容の動画を見た。店員から、ひげ脱毛のコースを強く推奨され、トライアルのために来たはずが、通い放題の脱毛コースに申し込むことになってしまった。約30万円と高額なので払えないと伝えたところ、某信販会社のローンを案内されローン申込書を記入することになった。その際、バイト収入年60万円程度と記載したところ、係員から、年収300万円以上と書くよう指示された。躊躇もあったが仕方なく契約書及び確認書にサインした。
その後、施術の予約をしようとしたが空きがなく、3か月間に2回だけ、脱毛の施術を受けた。ローンの支払い明細書が届き、分割払い月額4万円と高額だったので支払っていけないと考え、中途解約を申し出た。エステ店は、既に3か月経過しているので、中途解約手数料を含め解約金約13万円請求すると言った。不満に思い、施術を受けたのは2回だけなので請求額は支払わないと伝えた。
数日後、エステ店から書面が届いた。エステ店の書面には、「契約内容については、契約時に契約内容を説明する動画の中で説明を行っている。加えて、利用規約にも重要事項を赤字で記載しており、説明内容を理解した旨を、個別にチェックボックスを用いて確認している。ローン申込書の記載に当たっては、社員に顧客目線で説明するよう指導を行っており、年収を高く書いた方が申請が通りやすくなるといった説明は断じて行っていない。中途解約時の清算金額は、役務提供が可能であった3カ月分に加え中途解約手数料 2万円を含めて計算しているので理解してもらいたい。」との趣旨だった。全額返金して貰えないので不満だ。 (20歳代 男性 大学生)

【注 意 点】
- エステサロンは医療機関ではないので医療行為はできません。医薬品を使用した治療や医療機器を使用することは禁じられています。具体的にはケミカルピーリングや脱毛(レーザー以外のいかなる方法であれ毛根を破壊すること)は医療行為に該当しますので、医療機関以外で行うことができません。脱毛を行っているエステサロンがありますが、 ムダ毛の一時的な処理を行っているに過ぎません(もし医療行為と同じ永久脱毛を行っているなら違法です)。エステサロンでの施術は痛みや副作用が少なく、マイルドな施術ができます。これらの施設の特徴と違いをよく念頭において、どちらを選択するか決めましょう
- エステティックの提供期間が1か月を超え、かつ支払総額が5万円を超えるものは特定継続的役務提供の対象であり、クーリング・オフや中途解約などが可能です。クレジット会社への以降の支払い停止を求める抗弁を主張することができます。クーリング・オフ行使の際には、エステ業者宛と同時に、クレジット業者宛にも抗弁書(書面)を提出することになります。

執筆者プロフィール 金崎賢秀(HN)
埼玉県在住。2003年消費生活アドバイザー資格取得。2005年民間保険会社を定年退職し、同年、地元自治体の消費生活センターで消費生活相談員に任用される。以来18年5か月勤務し、2024年3月末に退職する。現在は社会貢献活動として地元の複数の相談業務に参加。
趣味:各地の自然遺産の探訪。読書(推理小説を乱読)。1945年生れ。