第四回「住まいの契約トラブル」~消費生活アドバイザーから見た日本社会におけるギャップ~

住まいの契約トラブルに遭わないために

<事例①:戸建て住宅の修繕工事>

 先日、突然知らない工事業者が自宅を訪問してきて「この周辺の家で数件の工事を請け負っている。ついでに点検してあげる」と言った。業者は無断で屋根に登って写真を撮り、写真を見せながら「地震が来たら隣人宅に瓦が落ちる。改修しておい方が良い」と言いつつ帰っていった。
  数日後、再度訪問があり、屋根葺き替えと足場工事で約 250 万円の見積もりをもってきた。必要な工事と思い、業者を信じて屋根の吹き替え工事契約をした。求められるまま、工事費用を業者の預金口座に振り込んだ。数日後、業者は足場を組みながら「壁がはがれているので塗装した方が良い」と言った。詳細な説明がないまま 二日後に外壁塗装と雨どい交換工事の簡易な見積もりを見せられた。約300万円と高額なので躊躇もあったが言われるままに契約サインしてしまった。代金の送金を急がされ、業者あてに振り込んだ。 その後更に、床下工事も必要だと言われ、数日後に更に約 150万円の床下調湿、床下配管交換工事の契約をして支払ってしまった。
 その後、別居の娘夫婦に伝えたところ、必要ない工事ではないかと叱責され、解約することにした。業者に電話で工事の中止を伝えたが無視された。数日後、業者宛に解約通知書面を発送して返金を求めた。
 しかし業者は、それぞれの契約は正当に締結されており、取り消しや無効と言った主張には理由がない。契約代金の返金を求められる根拠がないと回答してきた。 しかし請負契約書の施工方法の欄には、『工事一式』と書かれているだけで詳細な工事見積書を交付されておらず不明朗な点が多い。契約をなかったことにして、既払い金 700万円を返金して貰えないか。 (58歳 給与生活者)

【注 意 点】
  • 訪問販売を行う事業者には、勧誘に先立って、消費者に対し、事業者の氏名(名称)、契約の締結について勧誘する目的である旨、販売しようとする商品(権利、役務)の種類を告げなければならないと法(特定商取引法)で定められています。突然訪問された際は、まずこれらの事項を確認しましょう
  • 今回請負契約された部位は、消費者が日常生活において「通常直接的に使用しない部位」に当たる部分があります。少なくとも外壁塗装と床下工事は過量販売に当たると考えられます。従って取り消し要求は可能ではないでしょうか。(消費者庁・「訪問販売又は電話勧誘販売における住宅リフォーム工事の役務提供に係る過量販売規制に関する考え方」)
  • 契約書面に施工方法の詳細が書かれておらず、見積書も同時交付されていない場合、契約書面不備に当たる可能性があります。従って正規の契約書面を求め、その書面交付後8日以内であれば訪問販売におけるクーリング・オフ行使が可能と考えられます。
<事例②:マンションの浴室修理>

深夜、居住しているマンションの浴室及び水洗トイレの排水管が詰まってしまった。このままでは階下の住人に迷惑がかかると思い、地元の複数業者に電話したが「本日の営業は終了しました」という留守電メッセージが流れるだけて依頼できなかった。
仕方なく、以前から保管していた「水回りの修理費用は3,000円~」と書かれている投函チラシ広告を見て電話した。コールセンターに繋がったので依頼したところ、基本料金の5,000円は作業をしなくてもかかると言われ了承した。
 1時間後、修理業者が来訪してきた。業者は、浴室及びトイレと配管の点検をしたうえ、口頭で「特殊な作業になるので代金は35,000円」と言った。高額だとは思ったが、『自分から事業者に修理依頼したので仕方ない』と思い、言われるままに白紙の契約書にサインをした。その後、事業者は、持参した器具を使って30分くらい作業をしていた。業者の指示に従って浴槽と便器にトイレ用の紙を流したところ流れた。作業は終わったと告げられ、手渡された請求書面には約180,000円と表示されていた。「このような金額は聞いていない」と伝えると、作業中に話したはずと言い返され、もう作業したのだから払うようにと強く言われた。押し問答になったが、払ってくれないと帰らないと言われ、怖くなった。仕方なく他の支払の為に用意していた現金で100.000円を支払った。業者は、残金は数日中に集金に来ると言って帰っていったが、納得できない。(30歳代 給与生活者)

【注 意 点】クーリング・オフの行使が可能か
  • 消費者が、『自分から業者に依頼した(請求した)』とは、購入者が契約の申込み又は締結をする意思をあらかじめ有し、その住居において当該契約の申込み又は締結を行いたい旨の明確な意思表示をした場合が該当します。チラシの表示額と実際の請求額に相当な開きがあることから、修理依頼した時点では、「水回りの修理費用は3000円~」とのチラシで契約する程度の意思しかなく、実際に請求された高額な請求額で契約する意思はなかったことは明らかです。“修理を請求した者”とはいえず、法における適用除外の対象とはならないと考えられます。従って、クーリング・オフ行使は可能です。(参照;消費者庁HPより「訪問販売等の適用除外に関するQA」)
  • ただし近年は、クーリング・オフ通知を出しても、返金がないまま業者と連絡不能になるといった悪質業者とのトラブル事例が散見されます。工事当日の支払いは危険なので翌日以降の支払いを提案する必要があります。その際、業者が大声で怒鳴るなど身の危険を感じることがあれば、警察に連絡すべきです。
【参 考】クーリング・オフは電子メールなどでも可能に
  1. クーリング・オフとは、訪問販売や電話勧誘で商品・サービスの契約をした場合、購入の申し込みや、契約した日 (=契約書面を受け取った日)を含めて8日以内であれば、無条件で申し込みの撤回や契約の解除が可能となる制度です。ただし適用除外の商品・サービスがあります。
  2. クーリング・オフは ①電話ではなく、必ず書面或いは電磁的方法で販売店等へ通知すること。②書面の場合は、内容証明郵便が最も確かですが、少なくとも配達記録扱いのはがきで通知すること。③クレジットを利用している場合にはクレジ ット会社にも同様に通知すること。④ただし、現金取引の場合で代金または対価の総額が3,000円未満の場合は、クー リングオフができません。
  3. クーリング・オフした後、①損害賠償や違約金を払う必要はありません。 ②支払った現金は全額返還要求できます。 ③商品を受け取った場合でも、販売業者の負担で商品を引き取らせることができます。
  4. 「電磁的方法」の代表的な例としては、電子メールのほか、USBメモリ等の記録媒体や事業者が自社のウェブサイトに設けるクーリング・オフ専用フォーム等により通知を行う場合が挙げられます。また、FAXを用いたクーリング・オフも可能です。
  5. クーリング・オフを「電磁的記録」で行う場合・まず契約書面を確認し、電磁的記録によるクーリング・オフの通知先や具体的な通知方法が記載されている場合には、それを参照して通知しましょう。通知後は送信したメールや、ウェブサイト上のクーリング・オフ専用フォーム等の画面のスクリーンショットを保存しておくことをお勧めします。
執筆者プロフィール 金崎賢秀(HN)

埼玉県在住。2003年消費生活アドバイザー資格取得。2005年民間保険会社を定年退職し、同年、地元自治体の消費生活センターで消費生活相談員に任用される。以来18年5か月勤務し、2024年3月末に退職する。現在は社会貢献活動として地元の複数の相談業務に参加。
趣味:各地の自然遺産の探訪。読書(推理小説を乱読)。1945年生れ。