第二回「投資・利殖情報」~消費生活アドバイザーから見た日本社会におけるギャップ
事例①・投資信託
大手都市銀行から定期預金の満期通知が届いた。更新するつもりで銀行の窓口へ行ったところ、窓口の女性が「利息が低くて申し訳ありません。定期預金のままだと利息は無いに等しい額だが、お勧めする投資信託に資金を投入すれば、桁違いの利息がもらえます。」と説明した。
その行員は物柔らかで、親切な振る舞いだったので「銀行も親切になったなぁ」と思いながら「損することはないですか」とたずねた。行員は「絶対とは言いませんが当銀行を信じてください」と答えた。
定期預金など元本保証以外の商品を購入したことが無いので躊躇していたところ、行員はチラシを見せながら、過去2年間の各月ごと配当実績を繰り返し説明し「必ず喜んでいただけます」という。あまりの熱心さに「ここまで言うのなら」と思い、この銀行の定期預金から投資信託へ切替えの手続きをした。契約内容についての確認書も求められるままサインした。
3か月後、まとまったお金が必要になった。
解約申し出して返戻金額を計算してもらったところ元本割れし、大損することがわかった。「元本を全額返してもらいたい」といったが、「投信だから損もありうる。そのことは伝えたはず」と開き直られた。後刻確認したところ、分厚い目論見書や説明チラシの片隅にリスク説明部分は記載されていたが、口頭では元本保証がないとの説明は無かった。また申込手数料率や信託報酬率などの説明はされていないので納得できない。 (49歳 男性)
注 意 点
- 以前から当該銀行の客であったとしても、未経験の投資信託を勧められているので、訪問販売や電話勧誘と同様に不意打ち性の高い勧誘行為です。いったん持ち帰り、冷静に検討する必要があります。
- 「銀行を信じてください」、「必ず喜んでいただけます」と言う勧誘トークは、断定的判断の提供、不実告知に該当する可能性があります。また、過去の毎月決算額、収益分配額のみ示して、ファンドのリスク(為替変動リスク、金利変動リスク、信用リスク)や、経費(申込手数料、信託報酬、信託財産留保金)の口頭説明を省略する勧誘は、説明義務違反にあたる可能性があり注意が必要です。
- ただし、サインして提出した確認書の内容によっては解約を拒否されることがあります。
- 理解できる口頭説明もなく、難解な専門用語を並べた内容の確認書が提示されたら、理解できない部分を繰り返し質問して、理解を深めるべきでしょう。その後の回答も理解できない場合は、その場でサインせず、持ち帰って検討しなおすことが肝要です。
事例2:投資用マンション
見ず知らずのA社から勤務先に日に何度も投資用マンションの勧誘電話がある。勤務先に迷惑がかかると思い、休日の朝に事業者と会うことになった。待ち合わせ先の喫茶店には事業者の男性3名がおり、説明を聞いた。必要ないと断ったところ、態度が急変し、脅すような口調になり、さらに夕方から深夜まで取り囲まれて説得され続けた。事業者の態度に恐怖を感じたことや、断るとまたしつこく職場に電話が来るかもしれないと思い、契約を了承した。1,900万円のワンルームマンションで支払いはB社で30年ローンを組んだ。
半年後、再びA社から「2つ所有するとさらに利殖に良い」と強硬に勧められ、2,200万円のワンルームマンションを契約し、B社のローンを利用した。
2年後、今度はC社の強引な勧誘に遭い、2,000万円のワンルームを購入し、やはりB社のローンを利用した。
さらに1年後、A社が連れてきたD社に勧められ、3,500万円の2DKのマンションを購入し、E銀行の住宅ローンを組んだ。その際、勧誘員からの指示で、年収や資産、利用目的等を虚偽申告してしまった。
現在のところ4戸とも賃借人がいて賃料収入があるが、それを差し引いてもローン返済は毎月15万円以上の赤字だ。この頃、ストレスで仕事にミスが続き、医師から休養を取るよう言われ、会社を休んでいる。復帰できるかどうかわからず、長いローンを払っていけるのか不安になった。また、最近はマンションの住居設備の修理もあり、出費がかさんでいる。債務整理するしかないのか。(40歳 男性)
【参 考】投資用マンションとそのリスク
- 投資用マンションで利益を得る方法は、キャピタルゲイン方式(マンションを購入し、不動産価格が上昇した際に売却して差益を得る方法)と、インカムゲイン方式(マンションを賃貸して家賃収入を得る方法)があります。
- 家賃収入を目的とする場合、➊マンション所有者が借主と直接賃貸借契約して賃料を得る方法と、❷サブリースつまり、管理業者がマンションを所有者から借り上げる賃貸借契約を締結し、管理業者がマンションの管理を行うとともに、入居者と転貸借契約を締結する方法があります。サブリースでは、管理業者が入居者から直接家賃を受け取り、そこから手数料などを差し引いたものが、管理業者からマンション所有者に支払われることになります。
- 投資用マンションには、建物や設備の老朽化による価格下落のリスクがあります。賃貸の場合には、空室や家賃滞納等により予定していた家賃収入が得られない等のリスクがあります。「空室保証」や「家賃保証」と説明されていても、賃料が引き下げられたり、サブリース契約を解除されるリスクがあります。
- このほか、固定資産税の納税義務やマンションの修繕義務など、オーナーとしての負担があります。
注 意 点
- マンションへの投資にはリスクがあり、必ず儲もうかるわけではありません。
- 提案されたマンション価格が適正かどうか、将来の家賃収入、オーナーとしての負担、ローン返済額等の様々な要素を十分検討して、判断して欲しいです。
- 契約の意思が無ければ、会わずに断りましょう。業者に「説明をするだけ」と言われても、会ってしまうと強引な勧誘をされて断りきれない場合があります。また、勧誘を断っても、業者に叱責されることがあります。何を言われても、「契約するつもりはない、必要ない」ときっぱり断りましょう。なお、一度断ったにも関わらず、事業者が勧誘を続けることは法律で禁止されています。
- 金融機関から融資を受ける際に、たとえ業者に指示されても虚偽申告をしてはいけません。金融機関でローン等を組む際に、年収や資産、利用目的等を虚偽申告すると、金融機関から一括返済を求められる可能性があります。ローン等の返済義務は借主にありますので、絶対に従わないようにしましょう。毅然と断ってください。
★宅地建物取引業者との取引に関する相談は、国土交通省地方整備局等や都道府県の窓口でも受け付けています。
執筆者プロフィール 金崎賢秀(HN)
埼玉県在住。2003年消費生活アドバイザー資格取得。2005年民間保険会社を定年退職し、同年、地元自治体の消費生活センターで消費生活相談員に任用される。以来18年5か月勤務し、2024年3月末に退職する。現在は社会貢献活動として地元の複数の相談業務に参加。
趣味:各地の自然遺産の探訪。読書(推理小説を乱読)。1945年生れ。