第10回「賃貸住居でトラブルに遭わないために」~消費生活アドバイザーから見た日本社会におけるギャップ~

【賃貸住居でトラブルに遭わないために】

賃貸住居を利用している人のトラブルには、大きく分けて①賃料の値上げや更新料に関するもの、②退去時の原状回復に関するものがあります。
今回は退去時に関するトラブル2事例を取り上げました。

<事例1 賃貸マンションの修繕費用>
10年前に月額12万円の賃貸マンションに入居し、前家賃とともに敷金24万円を支払った。最近、分譲マンションを購入したことから、賃貸マンションを退去した。

その後、管理不動産業者を経由し貸主に敷金を返すようを求めたところ、貸主は、「明け渡しを受けた後、畳の裏替え、ふすまの張替え、じゅうたんの取り換え及び壁・天井などの塗装工事を行い、その費用として24万円以上支出した。敷金は返金しない」と答えた。

確かに契約書には、『賃借人は賃貸人に対し、契約終了と同時に居住物件を原状回復し(賃貸人の計算に基づく賠償金をもって回復に替えることができる)、明け渡さなければならない』という規約がある。しかし明け渡し前に行った管理不動産業者との確認作業の際、修繕費用の負担が必要になるとは聞いていない。
また2年毎の更新で新賃料1か月分を更新料として支払っているが、その際も管理不動産業者や貸主から建物内の汚損箇所の費用負担について指摘されたことはなかった。

10年間、通常の使い方によって使用し、明け渡したのであるから、敷金は全額返金してもらいたい。 (50歳代 男性 事業経営者)
【 注 意 点 】
  1. 賃貸契約が終了したとき、借主は賃貸住宅の原状回復を行う義務を負います。しかし、賃貸契約の「原状回復」とは、借主の故意・過失によって賃貸住宅に生じたキズや汚れ(損傷)等、また通常の使用方法とはいえないような使い方をしたことで生じた損傷等を元に戻すことを言います。借主の責任によるものではない損傷等や、普通に使っていて生じた損傷(自然損耗)、年月の経過による損耗・毀損(経年変化)については毎月の家賃で対応しているので、改めて原状回復の義務はないと考えられます。
  2. 賃貸借契約は長期間にわたることが多く、原状回復が問題となる退去時は、契約締結時から相当の時間が経過しています。そのため、入居時の状況がわかるような記録が残っていないと、問題となる損傷等が自然損耗や経年変化にあたるかどうか、客観的な判断が難しいことがあります。入居時および退去時に居室内の複数個所をカメラ画像で保存しておくことをお勧めします。
<事例2 賃貸住宅の特約条項>
ペット犬(トイプードル)と一緒に住みたいと考え、「ペット可」の戸建て賃貸物件をネット検索して内覧した。
気に入った物件が見つかり、月額賃料16万円で賃貸借契約を締結し、敷金32円を支払った。
契約書には特約条項があり、「本契約解約時における①室内のリフォーム、②壁・付属部品等の汚損・ 破損の修理、クリーニング、取替え、③ペット消毒などについては、賃借人負担でこれらを行う。なお、この場合貸主が指定した専門業者へ依頼するものとする。」と付され、承諾サインしていた。このため、居住を開始した直後の約3か月間は、トイプードルを飼育用のケージ内で飼育し慣れさせた。

1年後、実家に戻ることになった。賃貸契約を解約し、管理業者を通じて貸主に明け渡した。
その後管理不動産業者から、本件特約等に基づく原状回復費用として、クロス、クッションフロアの全面張替え費用、クリーニング費用等の合計約50万円の支払を求めてきた。内容を確認したところ、ペット飼育に起因する損害はすべて負担してもらいたいというもの。
しかし特別の損傷を与えた事実はなく、負担すべき費用はわずかだと思うので減額請求したい。 (30歳代 男性、給与生活者)
【 注 意 点 】
  1. 「ペット可」に伴う特約条項については、①賃借人に不利益な内容でないこと、②当事者間の合意があること、などが前提です。ペットを飼育した場合には、臭いの付着や毛の残存、衛生の問題等があるので、その消毒の費用について賃借人負担とすることは合理的であり、有効な特約でしょう。
    一方、付属部品等の汚損・破損の修理、クリーニング、取替えについては、原状回復の定めに過ぎませんが、室内リフォームのような大規模な修繕費用を賃借人の負担とする合意は、不当条項といわざるを得ません。
  2. 従って、クロス及びクッションフロアについては、賃借人の故意・過失による破損等の損害がなく、ペット飼育による消毒のためであれば、張替費用負担の必要はありません。損傷部分の補修費用及び残材処理費のみ借主負担とするのが妥当ではないでしょうか。
  3. ハウスクリーニングについては、実質的にペット消毒を代替するものと思われ、賃借人負担とする特約は有効と認められるので、その費用全額を借主負担とするのが一般的だと考えられます。
  4. 上記に基づき、借主自身が独自に試算し主張する費用負担額を借主に再提案して妥協点を探ったらどうでしょうか。それでも妥協点が見いだされない場合は、簡易裁判所の調停や少額訴訟を利用して解決を図るという方法もあります。

(参考・国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン再改定版)

執筆者プロフィール 金崎賢秀(HN)

埼玉県在住。2003年消費生活アドバイザー資格取得。2005年民間保険会社を定年退職し、同年、地元自治体の消費生活センターで消費生活相談員に任用される。以来18年5か月勤務し、2024年3月末に退職する。現在は社会貢献活動として地元の複数の相談業務に参加。
趣味:各地の自然遺産の探訪。読書(推理小説を乱読)。1945年生れ。