全国民必読の「子ども基本法」~子どもの権利実現に今足りない条件

~高祖常子 認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事・子育てアドバイザーの視点(2/4)~

認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事、育児情報誌『miku』元編集長、厚労省、内閣府、子ども家庭庁など公職委員を数多く歴任、『こんなときどうしたらいいの?感情的にならない子育て』(かんき出版)など著書や執筆記事も多く、子育てアドバイザーとして多くのメディアで引っ張りだこの高祖常子さん。高祖さんが解決したいギャップとは?

(前回)高祖常子 認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事・子育てアドバイザーの視点(1/4)悲惨な2大事件で体罰禁止の法制化!日本の親子関係はどう変わるのか?

□「みんな違ってみんな良い」が子どもを混乱させる理由
□「嫌だ」と大人に言えない子どもが社会人になると
□10年動かなかった体罰禁止の法制度化が急速に進んだ2つの事件
□体罰禁止先進国のPR方法と日本の認知度

必読!日本でも成立した「子ども基本法」とは

塚越「ここに、子ども家庭庁掲載の「子ども基本法」があります。

こども基本法|こども家庭庁 (cfa.go.jp)

とても大切なことが書いてあるので、まずこどもを持つすべての保護者や子どもに携わるすべての教職員・保育者が理解することが大切ですね。」

高祖「子ども家庭庁準備室のときから、子どもが読んでも分かり易いようにということで子ども向けのリーフレットが作成されています。簡易な表現で、さらにフリガナが振られています。」

塚越「子どもに理解してもらうための工夫なんでしょうが、ここまで分かり易く表現してもらって初めて保護者等の大人たちも理解できるのでは?と思いました。他の法律は、一般的な大人が理解しようと思っても難しい。あれでは、政治家と法律家と行政職員しか理解できないから浸透しづらいですよね。

この子ども基本法について、大人も子どもも勉強する機会はあるんでしょうか?」

高祖「自治体や団体で個別にやっているところはありますが、基本的にはないですね。子ども基本法作ったから、あとはみなさん自分たちで理解して行動してください、では、実行力に乏しくなります。」

塚越「そうですね。保護者なら、子どもが生まれる前、保育園や幼稚園の保護者会、学校ではPTA集会や保護者会あたりで必須にしたいところです。」

高祖「そして、子どもたちには、子どもの年齢に合わせて子どもの権利(人権)を学んでいく。北欧などでは、それが当たり前になっています。教育の仕組みに組み込まれていないと、やった方がいいよね、くらいでは浸透しませんね。」

塚越「子ども基本法第11条には、「こども施策に対するこども等の意見の反映」がありますね。先日、わが家の三男が通う児童館でも、区主催の、こどもたちが思い描く児童館を考える「こどもまんなかmeeting!!」が開催され、三男も参加したようです。そこで三男は、児童館にも跳び箱が欲しい、みたいな意見を言ったそうですが、果たしてその意見がこのあとどうなっていくのか。」

高祖「こども基本法施行に基づき、国が推進する、こどもの意見を聴きこどもの視点に立った居場所づくりが区市町村で実現され始めた事例ですね。」

塚越「ただ、意見を聴くまではいいですが、聴いた後、実現されていかないと、言っても無駄だという悪い失敗体験にならないか不安もあります」

幼少期の「がっかり感」体験がブラック校則に与える影響

高祖「そこですよね。話をしたら否定もされずに聴いてもらえた、これ自体は大切なことですが、そのあとどうなったか知らされないし、現状は変わらなかった、という体験が繰り返されると、話をしても何も変わらないから、話すのを諦めてしまうことになりがちです。これは広い意味で言うと、日本社会の大損失なのではないかと思います。自分の意見を言っても無駄だと思う社会は、力のつよい誰かの言うとおりに行動していればそれでよいという風土になり、一人一人の個性が創造性に結びつかない組織や社会になっていくのではないかと懸念します」

塚越「実際、相対的に日本の組織から新しいものが生まれにくい状況になっていると思います」

高祖「学校で言うと、ブラック校則ですね。だいぶメディアでも騒がれて改定されてきていますが、こどもたちの人権を無視したルールの数々が未だに存在していますね。」

塚越「ブラック校則なんて、こども基本法から外れてるから改定しようと子どもたちが主張すれば変えられるんですよね?」

高祖「そもそも校則は法律でもないですし、校則が子どもの権利を侵害しているのはおかしなことです。学校生活をみんな気持ちよく過ごすためにあるのが校則であるべきなのに、例えば、地毛が茶色いのに、校則が髪の毛は黒となっているから黒に染め直すなんていう人権侵害が平気で横行してきたわけですね。」

塚越「まだブラック校則が成立しているような学校は、そもそも子どもたちの変革したい意欲が奪われているんでしょうかね」

高祖「小さいころから「がっかり感」が積み重なっていくと、何もやる気がおきないし、チャレンジをしなくなりますよね。今の若者は自己肯定感が低いと言われているけど、そもそも子どもたちの意見や想いを日本の大人たちが認めてきていなかったから、そうなっている可能性は否めません。」

子ども時代に大人の言いなりだった大人が子どもの権利を守る方法

塚越「子ども基本法が出来て、じゃぁ子どもたちの権利を尊重し、子どもの意見を聴いていこう、と大人たちが思っても、そもそもその大人たちが子ども時代に認められてこなかった経験ばかりしてますよね。親の言う通り、先生の言う通りに育っていた場合、この大人たちは子どもの意見を聴いていくようなスキルやノウハウを持っていない。どうアップデートしていったらいいんでしょうか?」

高祖「スキルとノウハウよりも前に、気持ちの問題がありますね。

保育士さん向けに、子どもの最善の利益を優先しましょうという話をしたんです。その直後の質疑応答で、「子どもたちの最善の利益は分かりました。私たち保育者の最善の利益は守られないんですか?」と言われたんですね。」

塚越「なるほど、切実ですね。」

高祖「みんなの最善の利益が守られるべきなんだけど、最善の利益同士が対立する場合があるわけです。子どもはこうしたい、保護者や保育者はこうしたいという場合、ズレますね。でもそれぞれの気持ちは尊重されて、そこを対話やコミュニケーションでズレを埋めていく。いつでも保育者が犠牲になって子どもを優先しなさいということではないんです。でも決定権があるのはほとんどの場合大人ですから、子どもの最善の利益は常に意識していないといけない、という話なんです。」

塚越「子どもも3歳くらいになれば対話もできますし、対話を諦めないということですね」

高祖「そう、対話はパワーもかかるし大変ですが、そこを丁寧にやっている園も増えています。

一方で保育士不足で人員に余裕がない園や学童保育は一人でたくさんの子どもを相手にしないといけなくなります。たくさんの子を統率しようとすれば、大声を出して指示型、威圧型になります。一人一人の対応が難しくなってしまい、怒鳴りつけたりなんてことも起きやすくなります。

だから、気持ちや意識は第一義的には大切なんですが、子どもの権利を尊重する環境を実現しようとしたら、働き方を変えるとか保育園の配置基準を変えて、一人の保育士が見る子どもの数を減らすなどの具体的な仕組み変革が同時に必要なんです」

子どもの権利を守るための環境整備と働き方とは

塚越「子どもの権利について理解するのはもちろんのこと、その実現できる環境づくりが合わせて必要ですね。

学校も一クラスあたりの人数は他国と比較しても相変わらず多いですからね。

次男が小学生のとき、国は40人学級から35人学級という少人数制移行時期に、5年生まで2クラスだったところ一人転校生が出て、6年生で1クラスになりました。1クラス20名が一気に40名の倍になった。そこで、コロナ感染で学級閉鎖になり、その後、学級崩壊を起こした。それにより、6年生クラスの教職員を3名体制にしないと対応できなくなりました。実際は6年の教職員は1名しかいないのに、2クラスのとき以上に人員を割かなくてはいけない異常事態に陥ったんですね。緊急保護者会も行いました。たった1名違うだけで形式的にクラス編成が決まってしまうという制度疲労。誰のためにもなっていない。一応、弾力的な対応は「特に必要と認めた場合」であればできるようですが、「例外の対応」は現場では運用されません。例外ではなく、原則は「こどもまんなか」でクラス編成を行うことでしょう。

この話は、子ども家庭庁準備室のときに、私が「こどもまんなかフォーラム」に呼ばれたタイミングだったので、小倉大臣(当時)の前でしたんです。子どもたちの最善の利益を分かっているのは現場の校長なんだから、クラス編成についても校長にもっと権限を付与すべきではないかと。」

高祖「もう1つは、働き方ですね。子どもを預けている保護者も長時間労働だったり通勤時間が長かったりして保育時間が長くなってしまう。世界的にみても日本の保育時間が長いことは異例の状態です。

学童もそうですね、保護者の労働時間が長くなると学童保育の迎えが間に合わないから延長保育の要望が増える。そうすると、その分、保育士や学童保育スタッフをより多くあてがわなくてはいけなくなる。でも、保育士や教職員や学童スタッフも親である場合もあるわけですから、さらに自分の子どもと過ごす時間が短くなってしまうという悪循環」

(次回)高祖常子 認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事・子育てアドバイザーの視点(3/4)
「こどもまんなか社会」実現を妨げる「男女賃金格差」と「親ガチャ」リスク
□「誰のおかげで飯が食えていると思ってるんだ」が発露する日本の構造
□女性の経済的自立と親ガチャの現状
□親ガチャによるこれだけの将来リスクはどう回避できるのか?
□危険を察知できない子どもたちと保護者への処方箋

「こどもまんなか社会」実現を妨げる「男女賃金格差」と「親ガチャ」リスク

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