保育士と保護者ギャップの真相

~小崎恭弘 大阪教育大学教授の視点~

子ども子育ての専門家としてNHKすくすく子育てなどメディア出演多数。保育士指導も精力的に行い、ご自身も保育士でもあることから、保育現場の現状と課題に詳しい小崎さん。小崎さんが解決していきたいギャップとは?

塚越:「小崎さんが解決していきたい「ギャップ」は何ですか?」

小崎:「まず、保育の現場で感じるギャップ、保育士と保護者とのギャップやな。

 保護者が保育士に何を求めているのか、保育士が保護者に何を求めているかにズレがあると、揉める。大きなギャップになる。「こんなはずじゃなかった」「それぐらいしてもらって当然ですよね?」「してくれへんのですか」ってこと。

 同じものを観ていても、違うものに見えているという認知の違いを日頃から意識して会話をしていかないといけない。」

塚越:「日常生活でも、ビジネスの現場にも通じる認知のギャップですね。」

小崎:「例えば、これ、保育士対象の研修で使っている研修教材。この絵、何に見える?この文章、どういう意味だと思う?」

塚越:(いくつかの教材を見せてもらい、やってみると。。)
   「あ~、確かにそうも見えますね。なるほど。わ、この文章は、意味がぜんぜん逆になってしまいますね。。」

小崎:「ほら、人間は観たいように見る生き物だってことがよくわかるやろ。」

「噛みつき」トラブルのギャップ

小崎:「保育園の話に戻ると、保育士と保護者でよく大きなギャップになる1つは、子ども同士の「噛みつき」トラブルね。」

塚越:「あ~、私の子たちも保育園のお友達に噛みつかれて、園長先生から報告と謝罪が何度もあったのを思い出します。」

小崎:「保育園って、子どもにとって一番安全なところのはず。保護者の期待は高い。そこでケガをするってそもそも大変なこと。」

塚越:「確かにそうですね。」

小崎:「例えば、保育園の園庭で遊んでいたら転んでしまって膝小僧すりむいてケガしてしまった、って話は、保護者も受け入れやすい。なぜなら、家庭で子どもを見ているとき、公園に連れて行って遊んでいるときにも、同じこと起きるからね。自分の子ども自身の不注意も多いし、あり得ることって保護者も思っている事象だから。
 一方、保育園の園庭で遊んでいたらお友達に噛みつかれてケガしてしまいました、って話は、保護者はビックリしてしまい、受け入れがたくなる。なぜなら、噛みつきなんて、家庭内では起きないこと。さらに自分の子どもの不注意とかではなく、相手のお子さんがいることだから。」

塚越:「保護者にとって一人目のお子さんなら、なおさらですね。家庭内では子ども一人ですし、噛みつかれる相手もいないですし。」

小崎:「でも、たくさんの子どもを観ている保育士からすると、子ども同士の噛みつきトラブルって日常茶飯事。ほとんどの保育士が経験してる。
 つまり、「噛みつき」は、保護者にとっては聞いたことない、家庭では経験したことがない、想定外の特別なトラブル、保育士にとっては日常に起こる想定内のトラブル。ここにギャップがあるわけ。」

塚越:「なるほど。
 だとするとそうしたギャップは、入園して最初の保護者会で、園長先生から「噛みつき」トラブルが子ども同士の生活の中でいかに頻繁に起きていることなのか、説明があれば、保護者としてもカウンターパンチのようなショックは受けなくて済みそうです。
 保育士と保護者の「情報の非対称性」から起きるギャップですから。」

小崎:「実際、その通りで4月の保護者会で事前に説明をしておけばいいはず。
 しかし、多くの保育士はそれをやっていない。むしろそんなこと保護者に伝えては駄目みたいに思ってるんですよね。
 でも噛みつきは日常茶飯事だから起きる。そして保護者とトラブルになる、保育士はますます保護者に言いにくくなる。」

塚越:「情報の差に加え、双方の思い込みも原因でしょうか。
 保護者にとって初めての子どもならなおさら、噛みつきも、子ども同士の喧嘩やいざこざも子育ての素人だから情報不足。さらに、自分の子どもに限って、そんなことは起きないと思い込んでいる保護者もいる。一方、先生方からすると毎日起きていることなので、言わなくてもいいんじゃないかとか、保護者も理解してくれるよねと思い込んでしまうと、双方のコミュニケーションはすれ違いそうです。」

小崎:「もちろん「噛みつき」トラブルなんて、ないほうがええねんけど、結局どこでも起きているんだったら、それを保護者が知らないというギャップを無くしていくには、事前に保護者に伝えなきゃあかん。それが保育士と保護者の信頼につながると思うねん。」

保護者はどこまで保育士をリスペクトしているのか

塚越:「そもそも保育士は子どもが好きだから保育士になるっていう人が多いでしょうから、その保護者対応そのものが保育士からするとギャップになりかねませんね。」

小崎:「そこは規程もされている。保育所は専門的技能技術を持って児童の保育及び児童の保護者に対する保育に関する指導をする、と。つまり、「及び」でつながっているので、法律的には「児童」と「その保護者」の重さは一緒。
 子どもが好きだから保育士になりたいっていう人も、本当に保育士資格の勉強をし始めれば、保護者の指導までするものなんだと理解して、保育士になっていく。「いやもう子どもが好きやから保育士になったのに保護者対応で無理になりました」っていう保育士がいるんやったら、保育士資格取るときちゃんと勉強したやろ、ってそこにギャップは本来あってはあかんな。机上の勉強と現場の厳しさにギャップがあったというなら分かるけどな。」

塚越:「また保護者側からすると、保育士の先生たちをどこまで保育のプロフェッショナルとしてリスペクトしているのか、保護者によってギャップがありそうだなと。私は自分の子どもを保育のプロにお願いしてると思ってましたから、どんな若い先生から言われようが、園長先生から言われようが、素直に「なるほど」と受け入れていましたが、何か場合によっては、自分の子どもも産んで育てたことがない若い保育士に言われたくない、みたいな保護者もいるんじゃないかと。」

小崎:「保育士からも良く相談されるやつな。
 保育の専門性と結婚出産は何の関係もないです。経験そのものは素晴らしいと思うし、僕は自分の子どもも育てた経験があってよかったと思うけど、だからといって、良い保育ができるわけではない。だから、保育士たちには国家資格のライセンスなんやから自信持て、と言います。
 そして、そういうことを言ってきた保護者がいたら、「それ、すごい私傷つきました」って自分の気持ちを保護者に伝えて、と。「私は勉強して資格を持っているから、自分に子どもがいなくても、保育のプロです」って伝えるようにと。
 とはいえ、なかなか面向かって言えないだろうし、それも、ギャップやな。
 もし子どもを産んだことがないとプロになれへんかったら、僕なんか一生なれへん。男性なんかみんなそうだし、父親も子育て出来ないって話になる。ただ、いまだに男女の壁は日本では強く残ってるな。なんか感情的になったときほど、そういう一面が出やすいな。」

ギャップはコミュニケーションで解決できるのか

塚越:「保護者の期待がバラバラで、保育のプロにお願いしてるっていう期待がどれだけあるのか。プロに加えて、保育士の性別とか年齢とか経験という属性にまで過度な期待をしているのだとすれば、やはり最初の入園オリエンテーションや保護者会で、バラバラの期待ギャップをある程度平準化する工夫が必要ではないでしょうか?」

小崎:「そこは保護者と保育士のコミュニケーションギャップでもあるから、やっぱり保護者会とかで期待ギャップを適切な情報で埋めていく必要があるな。」

塚越:「ギャップの解消に必要な手段の1つに「コミュニケーション」は良く出てくるのですが、私はコミュニケーションってある程度はスキルで補えると思っています。もちろん、コミュ障とか、人とのかかわりが好き嫌いはあるのは確かですが、自分の感情や特性とは別に、スキルを身に付けていく効果はあるのではないかと。」

小崎:「僕は研修でコミュニケーションワークをやってるけど、めっちゃスキルだと思う。コミュニケーションが大事ってみんな言うけど、誰にも教わっていない。だから、研修の中でも、いろんな資料とかデータを入れて、ワークをしながら身に着けていく。」

塚越:「ギャップをお互いに認識して、そのギャップをどう改善していったらいいかって流れになりやすいですが、まずそのギャップが、1と0のギャップなのか、10と0なのかでは、ギャップの程度が違うので、ギャップの認識だけでなく、ギャップの程度まではっきり認識してから、どう埋めようかってコミュニケーションを取っていかないといつまでもギャップは埋まっていかないですね。」

小崎:「専門家同士だったり、同じ職場で長く一緒にいる同士だと、当然わかってるよねという前提で話が進んでいく落とし穴もあるな。
 新任研修でいうねんけど、新しい保育園で園長・所長が飛ばす指示って、「先生あれやっておいて」、「これあれな」、みたいの多すぎて、最初何て言うてるかよくわからんやろ、ってね。その指示聞いて、自分以外の先生は「はい」とか言うんやけど、自分はわからない。
 そのときに知ったかぶりしないで、「すいません教えてもらっていいですか」って介入するだけでなく、「メモを取れ」と。メモ帳を持って聞きにきた瞬間、聞かれたほうは人間が変わってちゃんと伝えようとする。」

塚越:「それも1つのスキルですね。」

小崎:「保育現場のギャップ話しているだけでも尽きないな。
   もっと俗っぽいギャップも取り扱ってや。関東と関西のギャップとか。」

塚越:「あぁ、いわゆるのやつ、ですか。」

小崎:「そや。エスカレーターでは右と左どっちを空けるかとか、うどんの関東だしと関西だしとか。
天ぷらでも関東ではすぐ「春菊春菊」いうからな。」

塚越:「え、どういうことですか?」

小崎:「いやいやあれ「菊菜」やで。そんで、うどんやそばに乗せるやん。あんなの関西にないで。」

塚越:「(笑)
 あ、であれば、関東関西のギャップをやるのなら、昔と今のギャップも織り交ぜてやりたいですね。昔は、本当に関西圏でしかない情報とか、関東圏しかない情報とか、またテレビ番組も違えば、得られる情報も違っていた。でも今は、インターネットでこれだけ同じ情報を観れる環境で、得られる情報は一緒になってきたにもかかわらず、今と昔でどこまで一緒になって、どこが今でも違うのかっていうのを知りたいです。」

小崎:「そやな。そのあたりのギャップも一緒に解明していきたいな(笑)」

インタビューを終えて

小崎さんは、NPO法人ファザーリング・ジャパンの顧問でもあり、私にとって10年以上、ファザーリング・ジャパンで共に活動をしてきた大先輩でもあります。いつも保護者や子どもたちに寄り添いながら、ユーモアあるトークが印象的で、今回のインタビューでも弊社のスタートダッシュに勢いつけばとインタビューを買って出てくれました。2023年4月から子ども家庭庁が創設され、こどもまんなか理念の下、保育士と保護者の連携はより重要になっていきます。保育士と保護者のギャップについて、小崎さんのお力も借りながら、解決に向けて取り組んでいきたいと思います。