違和感を価値に変える一人ひとりの言動が日本を変える

~白河桃子昭和女子大客員教授・少子化ジャーナリストの視点(3/3)~

婚活、妊活の提唱者で、昭和女子大学客員教授、相模女子大学大学院特任教授などや「一億総活躍国民会議」「働き方改革実現会議」など多数の公的な有識者議員を務めながら、「働かないおじさんが御社をダメにする ミドル人材活躍のための処方箋(PHP新書2021年)」など多数の著作活動も行うジャーナリスト・作家の白河さんが解決したいギャップとは?

(前回)「働かないおじさん」が残り、エース級社員が辞める日本企業のこれから
□エース級の社員がなぜ会社を辞めるのか
□男性育休推進と分割取得で男女キャリアをフェアにする方法
□ワークライフバランスを学んだ学生がモーレツ会社に就職する謎
□ライフデザイン講座を女性だけが受講する問題点
□「働かないおじさん」が大量生産されるカラクリ

「休まない働き方」の日本と「休みをマネジメント」するフランス

白河:「また、時短を取ってる人の周りの人300人の男女に調査したら、2割が不公平、3割が負荷が増えたと回答しているんですよね。そして両立支援制度は今も使っていないし今後も使うつもりはないと回答した人が6割だった。この両立する人たちをフォローしている層を取り残さないようにしないといけないし、その人たちに育児事由じゃない休みを取らせたり、リモートワークなどを使えるようにしないといけない。」

塚越:「だから私は、男性育休の話するときは、改正法ができたからしかたなく対応するんじゃなくて、企業の働き方を変える起爆剤として、誰もが休める職場を作っていくことが大事なんだと伝えているんです。」

白河:「そう、今の感じでいくと、やっぱり正当な働き方は「休まない働き方」で、事由のある人だけ休んでいいよ、という雰囲気なんですよね。」

塚越:「そもそも有給休暇って20日取れますから、完全消化を前提に会社運営をすれば11ヶ月でパフォーマンス出す仕組みにしなきゃいけないのに、「休まない働き方」を前提に12ヶ月フルフルで運営しようとするから、会社が想定している以上に有休取得しちゃったら人手不足になるの当たり前ですよね。全員が11ヶ月でパフォーマンス出せる仕組みにしたときどのくらい人が足りないんですかって話していかないといけないんですが、どの企業もそんなことしていないから、平常時から既に足りてないんですよ。」

白河:「「28連休を実現するための仕組みと働き方、休暇のマネジメント」著書の髙崎順子さんと対談したときに、フランスも昔はワークホリックの国だったけど、法律や制度で変えていった。みんながその28連休、1ヶ月近いバカンスを取るのは、どんな業界であっても経営者の義務だからやらなければいけない。義務だから工夫して誰が休んでも会社が廻るようにするわけです。
 子どもがいる人は子どものバケーションに合わせなきゃいけないので、そこしかバケーションが取れないから、逆にかわいそうだねって思われているんですよね。
 でも各地区で学校のバケーションも少しずつズレているらしく、そこがいいんですよね。」

塚越:「日本は、学校の休みがほとんど統一ですからねぇ。。」

白河:「そういう意味で日本みたいに「子育てしてる人だけ休めていいよね」みたいな声がフランスで出ないのは、みんなが休めるからですよね。

 日本の話をすれば、産科ってそもそも減ってきていて、人手も足りなくて、お産は待ったなし。産科は女性が多いのでどうしても子育ての人の休みが優先されがち。
 そこで、ある病院は、誰もが必ず1ヶ月に1回、必ず何の理由もなく休んで良いとしたら、不満が出なくなったという事例もあります。」

塚越:「月に1回の有休、1年間で12日ですから、有給取得率6割ぐらいですよね。誰かが沢山取れて、他が取れなくて、全社で平均すると有給取得率6割ではなくて、誰もが6割取れることを補償するのが大切ということですね。」

白河:「そう、誰もが休みが取れる職場づくりが全員活躍推進の鍵だと思いますね。」

全員が休むことを前提としたら社会構造はどう変わるのか?

塚越:「全員が休むことを前提にしたら、今の仕事の仕組みや働き方では無理なので、大きく変えていく工夫をしていくことになります。とにかく人手が必要な今の仕組みを保とうとするから、人手不足になる。実際、人手不足で24時間営業やめます、とか、この店舗は一時休業しますなんてことが起きてますよね。」

白河:「ヨーロッパではSDGsの観点から、飛行機の短距離便を廃止するらしいです。つまり、東京大阪間の飛行機がなくなる、みたいなことですね。でも、本当にそうなっても、たぶんやっていける。今はリモートワークも出来るし。しかも早く移動することや長時間働くことが生産性を上げるわけではないということは政府の働き方実現会議でさんざん議論されてきたことですからね。」

塚越:「本当に人と人が会うことの意味とか、本当に人じゃなきゃいけない意味が問われてきますね。」

白河:「そうそう、「わざわざ来てくれてありがとう」じゃなくて、「これだけの用事に何しに来たの?」って言われないよう日本は考えないと、グローバルでビックリされてしまいますよ。」

塚越:「そうですよね。一方で日本だとテレワークって、若い人たちは求めているのか求めてないのかっていうと意外とリアルを求めてるってデータがあったり、このコロナ禍でテレワークが進んだって言うけど全然進んでなくて、東京でやっと5割、地方だと半分以下ですよね。」

白河:「テレワークを経験した人は全体で27%というデータですね。でもこれまでゼロだったのが、体験したっていう人が27%で4分の1だから日本では大きな変化です。
そして、若い人たちが求めているのはリアルかテレワークかどっちかじゃなくて選択肢なんですよ。」

塚越:「自分で選べるということですね。」

白河:「そう、だから出社しかありません、テレワークしかありませんじゃなくて、自分で選べることが大切です。
最近転職が増えてます。転職のとき、条件を見ますよね、リモートワークがある条件で入社したら、この部署では全くリモートワークできる雰囲気ではありません、ではすぐ辞めますからね。」

塚越:「そりゃそうですよね、リモートワーク出来る条件で入ってきているんですから。」

異なる文化を背負った転職者・越境者の活かし方

白河:「正直に言わなきゃ駄目ですよね。リモートワークの制度はあるけど育児・介護事由だけとかね。暗黙の文化が通用しないのが転職者だから。」

塚越:「転職者は違う文化を背負った人財ですからね。」

白河:「今よい傾向としては、NECや住友商事など年間の採用者数では転職者が新卒を上回ってるんですよ。こうした多様な人財を自社の色に染め上げるのではなく、活かしていくことが大切ですね。新入社員で入社してからその会社しか知りませんという人財ばかりの会社はかえってリスクなんじゃないかと思います。」

塚越:「中途採用者のように外の人財から違う文化が入ってくるというのもそうですし、社外にも飛び出して自分自身の中に多様な引出しを増やしていくということも大切ですね。」

白河:「そういう外に出て経験することを越境と呼んで推進している人たちがいますね。例えば大企業の人が、NPOやスタートアップ企業を2年経験しに行くわけです。先日、あるシンポジウムで越境を経験した人とご一緒したのですが、「越境者は2度死ぬ」と言ってましたね。」

塚越:「ほお、どういうことですか?」

白河:「1度目は自社から外に出た時ですね。スタートアップ企業とかあまりに文化が違いすぎて、オロオロしてしまい、私死んだ、と思うらしいです。そして外の企業でいろいろな経験値を得て、戻ってくると以前の硬直化した文化が待ってて、また死んだ、と思うらしいですよ。そこから本当に厳しい改革の道のりが始まるようです。」

塚越:「なるほど。ポイントは、外から戻ってきた人の経験が適切にシェアされたり、その人の意見が通るような受け入れ態勢を作っていくことですね。」

白河:「そうですね。そういう意味でも中途採用者をガンガン取って、中途採用者の意見をどんどん取り入れているような企業は、突然ダイバーシティの推進企業に変異することがありますね。日清食品などが転職の方の意見を取り入れていたと思います。大手食品会社は、ヒット商品が確立していることが多いので、保守的で、新しいことに挑戦しない風土になってしまうこともあります。そこに外から来た人材の新しいカルチャーを取り入れていくというのは、良いやり方の1つなんじゃないかと思いますね。」

日本企業が女性の社外役員を就任させる狙い

塚越:「外の意見を取り入れるっていう意味では、白河さんは社外役員もやっていらっしゃると思いますが、いかがですか?」

白河:「女性はどうせお飾りでしょとか言われる女性社外役員ですが、やっぱり1人もいなかったところに、1人入るだけで、全然違います。」

塚越:「ですよね。私は女性を意思決定層に入れることに抵抗のある企業には、まず経験してみては?と言っています。これまで男性だけで会議していたところに、例えば3人女性を入れてみる。女性活躍で3割入れなきゃいけないからではなく、まず3割を経験してみる。この経験は、別に女性を役員や管理職にしなくてもできることです。会議のテーマにも寄りますが、同じ情報提供と意見を言える機会を作れば良い。違いが体感として分かります。」

白河 「日本企業にとって、多様性でイノベーションというのはまだ先の話で、まずはリスクマネジメントの効果が大きい。多様性な視点を入れることによってリスクが軽減される。同質性のリスクをいかに回避していくかですね。」

塚越:「企業側からジェンダーギャップの解消は企業にとってリスクマネジメントであることを実感していればもっと進められるだろうし、もちろんイノベーションまでいってる企業では、利益や売上にもつながる。そもそもリスクマネジメントできずに事象が明るみになるとリピュテーションリスクなどでマイナスになっていきますからね。」

白河:「イノベーションの話は、プラスの話ですが、まずマイナスをゼロに戻そうとか、マイナスが起きないようにしようというのが、リスクマネジメントの話ですね。いま、社外取締役の数が多い企業は、そこを狙っていると思います。
 また、今、上場企業は財務情報だけじゃなくて、非財務情報など多様な観点が求められています、私が社外役員をやるときに常に心掛けているのは、違う視点を提供することです。」

テレビや新聞などのメディアにジェンダー視点が生まれた背景

塚越:「違う視点ということでいうと、メディアの在り方はどうですか?白河さんは、メディアの出演も多いと思いますが、若者が利用するメディアはSNS中心に多様である一方、オールドメディアは一辺倒な視点が多い気もしますが。」

白河:「オールドメディアも結構変わりましたよ。ジェンダー視点での分岐点は、東京オリンピック・パラリンピック委員会の森会長の辞任ですね。これまでだったら、いつもの森さんの冗談で終わってたことを連日メディアが女性蔑視発言といって報道をつづけた。
 その背景には、テレビ局や新聞会社などで子どもを育てながら記者を続けて、24時間働けないようなやつは一人前じゃないなんて厳しい評価をうけながらも、頑張って頑張って続けてきた女性たちがデスクに上がり始めたからです。男性アナウンサーでも育休とって積極的に発信する人たちも増えてきましたよね。」

塚越:「現場での継続的な変化が様々なところで華が開いているわけですね。一方で、直近のデータを見ると大手テレビ局の役員は全員男性ですし、意思決定層に大きな変化がありません。男性たちが優先するのは、政治と経済。新聞の一面記事は政治や経済じゃないとおさまりが悪いと考えがち。生活や芸能、子育ては女・子どものテーマとして軽視してきたわけですね。
少子化傾向が明確になってからも何十年も子育てが一面を飾ることは殆ど無かったし、芸能界で児童虐待や人権侵害があっても放置されてきたという事実があります。」

白河:「政治家が言う「世論」って何かっていうと、新聞やテレビなどのオールドメディアなんですよ。だから、オールドメディアに取り上げられない限り、世論が足りないといって政策の中で後回しになってしまう。

以前、スウェーデン大使に、なぜスウェーデンはこういう国になれたのですか?と聞いたんです。そしたら、法律や政策を作るのは国ですが、風土を作るのはメディアなんです、と言われて、あぁだから日本はダメだったのかと思いましたね。

オールドメディアの発信することが世論であり、それを見て政治家が政策の優先順位を変えているわけですから、同質性の男性ばかりの日本のオールドメディアでは、変われるわけがなかった。
実際、「保育園落ちた、日本死ね」も、話題になってニュース性が出てオールドメディアまで取り上げたから検討されたんです。それまでは保育園が足りないことは「たいしたニュースではない」と却下されていたそうです。」

塚越:「意思決定層に女性がいないとしても、これまでゼロだったデスクに女性が増えてきたことが大切なんですね。でも本来は女性でなくても良い話。」

白河:「育休を取ったり、生活に根ざした理解のある男性がデスク層にいたら、待機児童問題はもっと早く解決できたかもしれません。性別で判断すべきではないところですが、メディアにおいてはマイノリティだった女性はマイノリティの痛みを知っているからマイノリティに寄り添うことがしやすいという話ですね。」

塚越:「男性は育休を取ったり、ライフ寄りの話題になるとマイノリティになってしまいますから、男性も不自由を感じますね。性別でこういう人生を生きなさいと縛ってきた日本では、個人、家族、社会にわたって弊害として顕著化しているんでしょうね。」

老若男女が意見表明しやすい日本社会を目指して

白河:「デジタル民主主義の台湾は素晴らしくて、税金の使われている全ての公なことについては男女比率を分かりやすくサイトに公開しないといけないんです。どんな効果がありますか?と聞いたら、何割にしなさいという規定はないけど、この政策に関わった議員の男女比はどのくらいかとか、公のことをやりたい人は女性が何割入っているかと毎回意識しないといけなくなる。見える化することで、意識や行動が変わってくる効果があるということなんですね。また、パブリックコメントとは別に、3000人が賛同すれば、政府は検討しなければならないというサイトがあるんですね。そうすると高校生の女の子が提案したことが賛同を経て、本当に政策になっていったりするんです。」

塚越:「なるほど、それなら若い世代も政治参画していきますね。分かり易いプロセスと仕組みはとても大事ですね。」

白河:「リアルに民主主義しようと思うと、代表制になってしまいますが、デジタルであれば出来る事は増えますね。
 日本では、例えば選択的夫婦別姓について、出生率を伸ばしている海外の事例から家族の定義を広げて多様な家族像を許容する文化を作っていくと出生率も伸びていく。家族がバラバラになるなんて話ではない。ところが、そういう合理的な事実も、検討委員会に反対派が押しかけてきて、声が大きい人がうやむやにしてしまう。もし、委員会で検討されてた内容が公開されて、例えば自民党議にSNSで賛成反対をデジタルで投票させたら、プロセスも仕組みも見える化されて明確ですよね。」

塚越:「オープンな台湾のデジタル民主主義とクローズドなリアルな日本の民主主義の違いとして見えてきますね。」

白河:「そのテーマに強い想いを持っている人以外は、他にやりたいことがあるから、わざわざこれに加担することで、他にやりたいことができなくなるくらいなら、触れない、関心を持たない、という決定になってしまうんです。」

塚越:「政策に参画したいと思っても、決定するまでのプロセスが複雑で、投票しても、意見をしても、知らないうちにうやむやになっていく仕組みでは、無関心層を増やすばかりですね。」

白河:「Me Too運動後やオリンピック前後から感じているのは、意見表明をしないと差別に加担していることになる、という意識は世界中に広まってきているんです。
 だから、東京オリパラのときジェンダー問題が起きて、スポンサーが放っておかずに様々な声を挙げました。黙っていると差別企業として認知されてしまうリスクがあったからですね。」

塚越:「黙っていればいい、という傍観者の雰囲気を日本では感じますが、反対している、違和感がある、ということを表明していく文化を老若男女問わず日本でも根付かせていかないといけないわけですね。
 最近は、ジェンダー問題があれば、SNSで炎上するようになり、適切な炎上は社会をアップデートするのに必要だと思いますが、政治とメディアの関係、企業や教育機関におけるジェンダーギャップは、まだまだ課題が山積してることを改めて感じました。」

白河:「はい、一緒に解決に向けて頑張っていきたいですね。」

インタビューを終えて

白河さんと対面でちゃんとお話したのは、10年以上前にあるイベントで登壇が一緒だった控室だったと記憶しています。一番印象深いのは、白河さんが「一億総活躍国民会議」の委員になったとき、そのブレーンとして複数の専門家の一人として私も呼ばれ、「労働時間アンケート」をイクボス企業同盟参画企業とワークライフバランス社クライアント企業に行って、緊急フォーラム「ニッポンの働き方は本当に変えられるか!?~長時間労働がなくなれば企業や社会はもっと豊かになる~」を共同開催後、白河さんがそのアンケートなどを使って安倍首相にプレゼンしたことで労働時間の上限規制のきっかけの1つになった活動でした。白河さんはファザーリング・ジャパンの秘密結社主夫の友にヒアリング調査したり、FJ会員になっていただいたり、イクボス企業同盟の運営にも参画していただいたり、様々な人々と引き合わせていただいたりと長年お世話になっています。

今回のインタビューで、白河さんの引き出しの多さに驚愕。関連するキーワードから様々な課題と解決の糸口を次々とお話になるので、1時間半程度のインタビューをまとめたらカットするところが見つからず。3つの記事に分割して掲載することにしました。