「こどもまんなか社会」実現を妨げる「男女賃金格差」と「親ガチャ」リスク
~高祖常子 認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事・子育てアドバイザーの視点(3/4)~
認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事、育児情報誌『miku』元編集長、厚労省、内閣府、子ども家庭庁など公職委員を数多く歴任、『こんなときどうしたらいいの?感情的にならない子育て』(かんき出版)など著書や執筆記事も多く、子育てアドバイザーとして多くのメディアで引っ張りだこの高祖常子さん。高祖さんが解決したいギャップとは?
(前回)高祖常子 認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事・子育てアドバイザーの視点(2/4)全国民必読の「子ども基本法」~子どもの権利実現に今足りない条件
□必読!日本でも成立した「子ども基本法」とは
□幼少期の「がっかり感」体験がブラック校則に与える影響
□子ども時代に大人の言いなりだった大人が子どもの権利を守る方法
□子どもの権利を守るための環境整備と働き方とは
「誰のおかげで飯が食えていると思ってるんだ」が発露する日本の構造
塚越「今、働き方は夫婦共働きが主流ですが、とはいえ、女性の働き方は非正規社員であることが多く、家計の大黒柱は男性である家庭が日本ではまだ多いですね。そうすると夫婦間の経済バランスの悪さが、何か些細なきっかけで噴き出すことがあります。」
高祖「「誰のおかげで飯が食えてるんだ」系の男性からの発言ですね」
塚越「まさにそれですね。また、夫の許可がないと保護者同士の懇親会にも参加できないお母さんもいましたね。まるで奴隷です。この令和の時代にですよ。
でも一方で、男性の立場を考えると、自分の家庭内の存在意義が「稼ぐ」ことしかない場合、この「稼ぐ」という拠り所を失うと自分自身が崩れてしまう。だから夫婦喧嘩になったときに「稼ぐ」ことを執拗に主張するし、稼ぐ自分を敬ってほしいし、稼ぐ自分に従ってほしいという、1つの価値観しかない男性のしんどさみたいなものが見え隠れします。」
高祖「とはいえ、女性が男性より稼ぐというのは、日本の構造上、なかなか難しいのも事実です」
塚越「はい、2023年4月から上場会社は有価証券報告書に男女賃金格差を開示しなくてはならなくなりました。この男女賃金格差がとにかく酷かった。世界的にも男女賃金格差(ジェンダーペイギャップ)はなかなか解決しない問題としてクローズアップされていますが、おおよそ女性の賃金は男性の8割程度。
ところが日本の場合、業界による差が顕著でしたが、金融業では、5割。生保では、4割を切っている会社も。つまり、例えると男性が1000万円稼ぎ、女性は300万円台ということです。その原因について各企業いろんな言い訳をしていますが、結果だけを見れば、日本企業は世界に対して女性を搾取して利益を上げていたと理解されても仕方がない恥ずかしい状況でした。」
高祖「そうなると、日本の女性は稼ぎたくても稼げない構造のなか、「誰のおかげで飯が食えてるんだ」と言われても、無力感しか感じないですね」
女性の経済的自立と親ガチャの現状
塚越「そう主張する男性も、自分の努力というよりは日本の構造上、男性有利ということでしかない虚しさもありますね。
現在の男女共同参画計画において、「女性の経済的自立」が大きな柱の1つです。女性が経済的に男性から自立が出来ないと、離婚ができない、夫からのあらゆる暴力に耐えるしかないという悪循環を作りだします。そのDVの様子を子どもが家庭で体験をする。家庭は安全な場ではなく、命すら奪われかねない危険な場になっていきます。」
高祖「かつての日本で一時的に上手く廻っていた男女役割分業の社会構造は、むしろ現在は弊害でしかない気がします。」
塚越「子ども家庭庁は、こどもまんなか社会の実現のために創設された省庁です。どの家庭に生まれようとも、一人の子どもも取り残すことなく幸せに生きていける社会をつくっていかなければならない。
しかし、現状は親ガチャです。幸せな夫婦の家庭に生まれたか、酷いDVを繰り返す親のもとに生まれたかで、子どもの人生が全く違ってしまう。子どもに選択権が無いんです。
令和4年版子供・若者白書においても、家庭が「ほっとできる場所、居心地のよい場所」かと尋ねたら、75.6%がそうだと回答していますが、逆にいうと24.4%がそう思っておらず、ここに取り残されていく子どもたちがいると推察されます。」
親ガチャによるこれだけの将来リスクはどう回避できるのか?
高祖「親ガチャによる子どもの将来リスクついては、こんな研究結果もあります。
18歳までに、親から殴られた▽家族から大切に思われていないと感じていた▽親が別居や離婚をした▽母が暴力を受けていた▽家族がアルコールの問題を抱えていた-などACE(逆境体験)となる10項目を質問。そのスコアが4以上の人はゼロの人に比べ、健康面で「重度のうつ・不安障害」に4倍、「自殺念慮あり」に4・4倍、社会経済面で「中卒」に2・9倍、「失業」に1・8倍、人間関係で「未婚」に1・3倍、「離婚」に1・9倍なりやすく、スコア1~3でも段階的にリスクが増加する傾向にあるというのです。(龍谷大の三谷はるよ准教授(福祉社会学)新書『ACEサバイバー』(筑摩書房);産経新聞2024年1月6日19時発信記事より)
子どもの権利、以前の問題になってしまいますから、この時代に創設した子ども家庭庁の役割は本当に大きいです」
塚越「先日、子ども家庭庁に呼ばれたので、この親ガチャの現状をどう改善していくかについても意見してきました。家庭が危険な場である子どものSOSを子ども家庭庁がどう把握し、救い上げていくのか。
1つ目は、今学校から子どもに1台パソコンが支給されてます。基本的に学校が管理するパソコンですので、親の介入を防ぎやすいでしょう。このパソコンに子ども家庭庁のアプリを使って、学校や家庭で危険な思いをしたときにSOSを出せる仕組みを構築するのは一つの手ではないかと。
2つ目は、そもそも子ども家庭庁は子どもの味方であるということを子どもたちにインプットしなければなりません。例えば小学校では社会科見学で必ず国会議事堂に行く機会があります。そのタイミングでこども家庭庁にも足を運んで、子どもの権利の話、家庭や学校などで危険な想いをしたら直接SOSをこども家庭庁に伝える仕組みがあることを伝えていくのはどうかと。」
危険を察知できない子どもたちと保護者への処方箋
高祖「どちらも良い提案だと思います。
しかしその実現の前提は、子ども自身が「いま自分は親から危険なことをされている」「自分の権利が侵されている」と自覚できることです。」
塚越「なるほど、そのとおりですね。子どもの権利が何であるのか、どんな状態が危険なことなのか。それが事前に子どもたちにインプットされていないと、親から暴力を受けたのは「自分が悪い事したから」「自分のせいでそうなったんだ」と思って、外にSOSを出せなくなってしまうわけですね。
そうすると、インプットの機会は成長段階ごとに、保育園幼稚園の段階からスタートし、小学校低学年、高学年の段階、そして中学校でもやっていく。総合などの授業の一環に埋め込むイメージでしょうか。」
高祖「そうですね。そして保護者へのインプットは、子どもを妊娠した段階から。私はその葛飾区両親学級で叩かない子育ての話を必ず入れています。赤ちゃんの泣き声にイラッとしても叩いたりしないで。赤ちゃんが泣くのは困ったよって言うメッセージですよって。そして産後はホルモンのバランスが崩れてママは精神的に不安定になってイライラすることもあるけど、パパは丸ごと受け入れてねと。」
塚越「私も産後のホルモンバランスの話は両親学級で必ず入れます。なんでこんな人と結婚してしまったんだろうなんて思う必要は全く無い、それはホルモンのせいだからと。
こうした知識を知った上で子どもを迎えられるかどうかは天と地の差があると思っています」
高祖「実際、乳児期の夫婦離婚率が一番高いですからね。」
(次回)高祖常子 認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事・子育てアドバイザーの視点(4/4)
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