豊岡モデルから見る地方の大きなジェンダーギャップへの挑み方

~小安美和(株)Will Lab代表取締役の視点~

リクルートから独立し、「女性」×「はたらく」をテーマに全国を飛び回りながら、ジェンダーギャップ解消を街づくりの中心に据えて成果を上げる兵庫県豊岡市に伴走してきた小安さん。内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員やWomen20(W20)デリゲートを務めるなど、国や海外の広い視野を持つ小安さんから見る地方におけるギャップとは?

塚越:「小安さんの解決したいギャップは何ですか?」

小安:「私が解決したいのは「日本のジェンダーギャップ」なのですが、特に「地方におけるジェンダーギャップ」を解決したいと考えています。

7年前にリクルートから独立し、最初に取り組んだのが地方における女性の就労支援事業だったのですが、そこで、想像以上に都市部と地方で差があると感じたためです。」

塚越:「その都市部と地方の差とは何ですか?」

小安:「そうですね、エピソードで紹介しましょうか。
 ある地域で女性の就労促進事業を行うことになり、ハローワークに取材をしたら
「この地域の女性は働きたいなんて思ってない。なぜなら男性の沽券にかかわるから」
と言われたんです。

塚越:「沽券ですか、なかなか最近聞かない言葉ですね」

「女の子がいないとお茶が出せない」!?地方の実態

小安:「さらに、ある企業を訪問すると、「ごめん、今日は女の子いないからお茶が出せなくて」と言って、いつも自分が飲んでいる栄養ドリンクを私に差し出してきました。

リクルートは早くからダイバーティ推進に取り組んでいる会社で、私自身も海外駐在したり、多くのチャレンジ機会を頂いてきたので、「女の子がいないとお茶が出せない」というセリフを聞いてショックを受けたことを覚えています。

さらに女性たちにヒアリングを始めると、「家事は完璧にやらなきゃ働いちゃダメ」「家事や育児以外にやりたいことは夫に止められる」という声が上がってきました。」

塚越:「あ、ちょっと待ってください、いつの話ですか?」

小安:「2016年です。」

塚越:「えぇ!?女性活躍推進法が始まった年じゃないですか。」

小安:「そうです。先進企業なら2000年過ぎたころから女性を総合職で大量採用し始め、2016年に法制化されると、これまで遅れていた大手企業もスタート地点に立った時期です。

でも、地方にいくと女性活躍推進法の対象となる100人以上の企業が少ないこともあり、このままだと、生まれた場所で女性の経済的自立の機会に格差が生じてしまうと危機感を感じました。」

塚越:「そして、どうされたのですか?」

都市部と地方格差の解消にまず始めたモデル化とは?

小安:「この都市部と地方の格差を何とか解消したい。まずは小さなモデルを作って横展開したいと思ったんです。
リクルート時代に所属していた人材メディア部門で、子育てや介護などで短時間しか働けない(主に)女性やシニアが働けるようになる「プチ勤務」という短時間・少日数の柔軟な働き方を提唱していたのですが、その概念を地方都市でモデル化しようと。」

塚越:「なるほど、それで「地方」なのですね。」

小安:「子育て中の女性が集う子育てセンターに出向いて、中長期のライフプランニングやマネーシミュレーション講座を行ったり、企業向けに短時間・少日数の雇用を創出するセミナーを開催しながら、マッチングイベントを開催します。地方都市に存在する潜在層のニーズにあった求人を作り出すことでこれまでにないマッチングが生まれました。」

塚越:「すばらしいです。」

小安:「このモデルの成果が出始めた頃に、兵庫県豊岡市でも女性の就労促進事業を始めたいというニーズを伺いました。」

塚越:「いよいよ、豊岡市ですね。」

小安:「豊岡市ではすでに市民アンケートを行っていて「市内の女性は働きたいニーズがあるが、既存の働き方ではマッチングが難しい」という課題設定をされていました。」

塚越:「なるほど。そこで豊岡市でも同じモデルを展開したわけですか。」

小安:「豊岡市の皆さんと産業別にヒアリングを行いながら、企業の理解、協力を得て柔軟に働ける求人の創出を行い、最初の年に30人近くの女性が短時間・少日数勤務で就職が決まりました。」

プチ勤務「短時間・少日数」の展開方法

塚越:「初年度で30人近くのマッチング成立とは大成功ですね。そもそも「短時間・少日数」っていうのは?」

小安:「ハローワークに行くと、9時-17時勤務で応相談という求人がほとんどだったんですね。

今はだいぶ変わってきましたが、これだと子育て女性はわたしが働ける時間の求人はないものだと思ってしまい応募しないんです。もっと柔軟な働き方ができることを企業がアピールしやすいフォーマットを作成し、応募ハードルを下げる工夫をしました。
短時間・少日数勤務は、究極、週1日1時間、週1回からでも良いのですが、実際は1日4時間、週3日〜4日が最も人気でした。」

塚越:「子どもが幼稚園や学校に行っている時間帯でしょうかね。」

小安:「だからまずは、1日4時間×3日間くらいからスタートして、仕事にも慣れ、子どもが手を離れてきたらフルタイムにしていくみたいなキャリア・ラダーを提供することに賛同してくれる企業とともに求人を一緒に作っていく。そして採用したい企業が一堂に会する「お仕事相談会」を開催し、求職者との出会いの機会を提供します。」

塚越:「企業側の準備は万全に見えますね。求職者の女性側はどうなんでしょうか?」

小安:「女性たちの思い込みを払拭する取り組みも必要です。女性の多くが「事務職が良い」と思い込んでいて、事務職以外の求人に見向きもしない事が多い。これではミスマッチは解消しないので、マーケットで必要とされている職種が何かといったインプットを行ったり、思い込みを越えて多様な企業の話を聞いてもらうように背中を押すような設計をしています。」

豊岡市のジェンダーギャップ解消戦略

塚越:「豊岡市といえば、ジェンダーギャップ解消の専門組織まで作って展開していることで有名です。私が小安さんから依頼を受けて豊岡市職員と豊岡市内企業向けに男性育休推進のセミナー講師をしたのが2019年でしたね。」

小安:「あのときはお世話になりました。2021年にはオンラインでも育休推進をテーマに登壇いただきましたね。

弊社では2017年より女性の就労促進事業を受託させていただき、2018年からは経済分野のジェンダーギャップ解消に取り組む「ワークイノベーション戦略」、市役所内のジェンダーギャップ解消のための「キャリアデザイン戦略」のアドバイザーとして関わらせていただいています。

その後、豊岡市では、ジェンダー専門家の大崎麻子さん、ジェンダー研究第一人者の目黒依子先生をアドバイザーとして「豊岡市ジェンダーギャップ解消戦略」を2021年3月に策定されました。

ただ、前市長の中貝さんが「ジェンダーギャップが課題だ」とおっしゃった時、「ジェンダー」という言葉は日本でそれほど定着していなかったときだったので、当時のご担当者と事業所向け、市役所向けのプロジェクト名は親しみやすいものにしようと議論したことを覚えています。」

塚越:「日本でもMe Too運動の動きが出てきたのが2018年前後。ジェンダー関連で炎上し、要人が辞職するほどにまで発展したのが2021年前後ですからね。」

小安:「わたしは、「女性活躍」って言葉も使いたくなかった。女性活躍という表現では、男性たちの共感を得られないと思ったのです。

働き方改革推進法も出来たけど、「働き方改革」レベルでは、豊岡市に女性たちは戻ってこない。必要なのは、もっと抜本的なイノベーションだろうと思い、「ワークイノベーション」ということばで推進しましょうとなりました。」

参照:豊岡市ジェンダーギャップ解消戦略|豊岡市公式ウェブサイト (toyooka.lg.jp)

豊岡市モデルが成果を上げた2つのポイント

塚越:「日本において、まちづくりの中心に「ジェンダーギャップ解消」を持ってくる事例は無かったので、画期的だと思うのですが、伴走してきた小安さんから見た、推進ポイントって何だったと思いますか?」

小安:「まず、ジェンダーギャップ解消は、豊岡市にとって、もともとあった基本構想に沿った取り組みだったということがポイントだと思います。

 豊岡市では、基本構想で「小さな世界都市 - Local & Global City - 」を掲げており、「多様性を受け入れ、支え合うリベラルな気風が満ちている状態を目指すといっています。目指す状態に向けてジェンダーギャップ解消は必要なアプローチだと言えると思うのです。」

塚越:「なるほど、「市長が急に横文字の新しい取り組みを始めたぞ」ではなく、「小さな世界都市、リベラルな気風のまちづくり実現には、ジェンダーギャップ解消なんだ」、という流れは自然ですね。

そして「豊岡市ジェンダーギャップ解消戦略」資料を見ると、女性の若者回復率の低下などデータに基づいて導いているので、合理的です。」

小安:「次に、経済界とともに推進していることもポイントです。
ワークイノベーション推進会議は市役所主導ではなく、商工会議所の会頭企業をはじめ、市内の事業所で構成されてます。市役所は1事業所として参加しています。ワークイノベーション推進会議は、18年に16社で始まり現在は102社と広がりました。経済界のネットワークの力によるところも大きいと思います。

小安:「女性が働きにくいという視点を掘り下げていくと、男性も働きにくかった、なんてことも見える化されてくる。事業所同士で事例共有しながら、各事業所で取り組みを切磋琢磨して進める動きが見られています。」

塚越:「経営者から従業員まで各階層を巻き込んだ戦略、実行期間のマイルストーン、KPIやKGIの設定、定期的な計測と評価、本当に良くできてますね。」

小安:「コロナ禍でも歩みを止めなかった市役所の皆さま、豊岡の市民の皆さまの取り組みが素晴らしいと思います。」

豊岡モデルは他の地域に横展開できるのか

塚越:「この豊岡モデルは他の地域に横展開できるものでしょうか?」

小安:「多くの自治体やメディアが豊岡モデルに注目していて、昨年、豊岡市への視察は57件(オンライン、リアル合わせて)、メディア取材10件、講演等18件と引っ張りだこです。

ただ、これはあくまで私見ですが、豊岡モデルをそのまま横展開できる地域と、カスタマイズが必要な地域があると考えています。」

塚越:「というのは?」

小安:「豊岡は人口8万人でかばん産業、城崎温泉などの観光産業等、地場産業のある地域。人口規模や産業構造などの条件が合えば横展開が可能。一方で、人口規模が小さく、農林水産業など一次産業がメインの地域では少しアプローチが異なると感じています。」

塚越:「つまり、それぞれの自治体の特徴を把握し、ヒヤリングなどの質的情報とアンケート調査など量的情報の側面から分析したうえでカスタマイズして展開しないと効果は発揮しづらいだろうということですね。

まさに現場に何度も足を運び伴走する小安さんのようなコンサルタントが得意とするところですが、単純モデルのパッケージ展開は条件付きになるわけですか。」

小安:「豊岡市の取り組みを参考に、さまざまな自治体がカスタマイズしながら波及していくとよいですね。私はカスタマイズが必要な地域や新たな施策展開が必要な地域を巡りながら、新しいモデル構築にも力を注いでいけたらと思います。」

塚越:「都市部と地域のギャップ解決は弊社のターゲットの一つなので、一緒に推進していきたいですね。」

小安:「はい、ぜひ、全国津々浦々でジェンダーギャップが解消されるように、ともに進めていきましょう!」

インタビューを終えて

小安さんとは、リクルート時代の「子育てしながら働きやすい世の中を共に創るiction!」で出会い、独立されてからは、内閣府男女共同参画推進連携会議委員で4年間チーム活動を共にし、業界別の団体ヒアリングや進捗度調査、業界団体支援など過去の連携会議活動に風穴を開けてきた同志でもあります。

今回の具体的事例として出てきた豊岡市のプロジェクトでも声を掛けていただき、私は男性育休推進および「暮らしの中の性別役割分担の実態と意識調査」の構築と監修で協力させてもらいました。とにかく小安さんは、戦略策定と推進力・実行力が素晴らしく、コンサルタントとしても毎回学ばせてもらうことばかり。ジェンダーギャップ解決に向けて、これからも共に活動していけたらと思いました。