知らぬ間に纏わりつく「日本のしがらみ」の正体と現代の学生たちの視点

~治部れんげ東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授・ジャーナリストの視点~

日経BP社の経済記者、ミシガン大学フルブライト客員研究員などを経て東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授をされている治部さん。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員や豊島区男女共同参画推進会議では会長をされており、ジェンダー炎上対応に関する著書や、ジャーナリストとしての鋭い記事執筆、コメント掲載も多数されている治部さんが解決したいギャップとは?

塚越:「治部さんの解決したいギャップは何ですか?」

治部:「私が一番解決したいギャップは、どういう親のもとで生まれたかによって、子供が持ってるチャンスが違ってしまうというギャップを解決したいです。

親の経済力とか社会的な地位とか財産とかで子供が得られる教育の機会や将来の展望がちがってしまいますよね。

もっというと、自分が生きてていいと思えるかどうかみたいなところもすごく違うので、そうしたギャップを解決していきたいです。」

塚越:「なるほど。

 治部さんは、国の男女共同参画の委員やそうした海外でのイベント登壇も多いので、ジェンダーの専門家という認識をされている方も多いと思いますが、今おっしゃった親の持つ力によって発生する子どもギャップが最上段にあって、その中にジェンダーギャップがあったり、貧困の問題があったり教育ギャップがあったりするんでしょうか。」

治部:「そうですね、ジェンダーギャップはそういう中の一つですね。」

塚越:「その子どもの機会ギャップは海外と比べて日本はかなりありますか?」

海外と比べた日本の子ども機会ギャップとは?

治部:「富裕層が国全体のどれくらいの富を持ってるかっていうその数字だけを見ると、日本はアメリカや他の新興国と比べても格差は少ないと思います。

また、日本で言われてる格差が拡大しているとかちょっと生きづらいとか、物価が上がってるとかそういうことと比べたときに、日本が他の国より悪いとは実は私は思ってないです。」

塚越:「海外のほうが良いから、日本も良くしようということではないわけですね」

治部:「悪い外国と比べてもしょうがないんで、本来あるべき姿にしていきたい。変えるべきところは変えていきたいっていうのが私の考えですね。」

日本における子ども機会ギャップの「過去」と「現在」

塚越:「日本において、最近そのギャップが広がっているのでしょうか?」

治部:「日本の歴史を振り返ると昔は身分制だったので、生まれたときに、この身分の人は上がれないとか、女の子はこれしかできないとか、そういうのは昔あったわけですね。

そこから世の中が変わって、その性別とか身分とか生まれに関わらず、同じチャンスが取れるようになってきているっていう前提があるはずなのにまだ不十分。

歴史上、このテーマで平等だったことがあるとは思わないですけど、目指すべき姿に届いていないことを大きな課題として認識しています。」

塚越:「治部さんが今までの活動の中で、そのギャップ解決にだいぶ貢献できたとか、逆にこれだけやっててもまだまだだ、という点はございますか?」

治部:「そうですね。ジェンダーの問題は私の中でいうと解決したいパートの1つに過ぎないんですけど、例えば、私が大学卒業した30年ぐらい前は、同じ大学を出ていても、男性がつける職業は企業の総合職、女性は採用してもらえないみたいなことがあったので、それはだいぶなくなってきてると思うんですよね。

それによって何が変わるかっていうと、例えば、離婚した後で、私の世代だと、夫と同じような学歴の人でも離婚したあとの収入がお母さんが低いということがあるわけですが、今後はそこも変わっていくと思います。また、女性の管理職がすごく少ないから各企業でもっと女性を登用しようという取り組みが今行われていますね。」

塚越「男女雇用機会均等法や女性活躍推進法などによる取組効果ですね」

都市部と地方の機会ギャップ

治部:「一方で、そういうチャンスにアクセスできる女性ないし女の子っていうのが、既に教育を受けてる人や都市部に住んでる人だと私は思うんですが、地方に行くと、女性の置かれてる状況が全然違ったりとか、未だに女の子は地元から行ける学校に行けばいいとか、結婚した方がいいとかっていうのがあるんですよね。」

塚越:「本当にありますね、都市部と地方のギャップですね」

治部:「やはり、どこに居るかによって持てる機会が違うんですよね。それは実は男の子に関しても、チャンスが違うので男だから優遇されてるというふうに簡単には言えない。」

塚越:「確かに」

治部:「私は今、東京工業大学という理系の大学教員やっていて、東工大学生は7割8割首都圏出身なので、1都3県以外の出身の人に聞くと、下宿して大学に行かなきゃいけないので、学費はすごく大きなハードルだと言うわけですね。私立に行くとさらに学費が高くなるので、東京に来るってことは実質、国公立大学しか選択肢がない。

 よって、理系の大学だから女性を増やさなければならないというジェンダーギャップがあるだけでなく、地方の人が持てる機会と大都市圏の人とのギャップがものすごいわけです。さらに、親がどれくらい子どもにお金を出せるかっていうところもあるので、総合的に考えていかないと、子どもたちの機会が均等になっていかないんですね。」

塚越:「本当にそうですよね。

 治部さんが教員として、東工大の学生たちと授業などでやり取りしている中で、今ご指摘のあった、地方出身の学生と都市部の学生、また男子学生と女子学生、ギャップを感じることはありますか?」

治部:「まず理系は女性がすごい少ない。東工大の学部の女子比率13%なんですね。で、この数字を見て、びっくりする学生と、そんなもんだよねって思う学生に分かれるんです。」

塚越:「え、どういうことですか?」

理系国立大学で感じるジェンダーギャップ

治部:「首都圏の女子高出身の人は理系に進む人が周りに多いので、こんなに少ないと思わなかったっていう感想なんですね。また、理系に女性は少ないって元から知ってる女子学生は、少ないことをある程度覚悟して進学してきています。

一方、男子学生も東工大は共学の筈なのにこんなに少ないなんてびっくりしましたっていう人がいるので反応の違いは色々ですが、男子の中でなぜ少ないんだって疑問を持つようなタイプの人が私の授業を受けると、その構造を理解し納得していきますね。」

塚越:「今、女子高も生き残りをかけて理系の女子学生を増やしていく戦略の学校が増えていて、共学の高校のような性別で文系だ理系だみたいな様子をまったく感じることもなく、本当に努力と能力で東工大のレベルに達したから進学してみたら、なぜか男子学生が多かったと。」

治部:「そうですね。女子校時代に全然女性差別とか感じてないのに、東工大に進学してみたら、日本の縮図が見えましたってことをレポートで書いてくれる学生もいます。」

塚越:「社会に出る前に気づいてよかったですよね」

治部:「ジェンダーギャップについて大学入学時点で何となく体感的に知ってる人と、全くそんなことはないと思ってる人の違いはありますね。」

塚越:「ジェンダーギャップについては、共学ほど男女の違いをより感じてしまう環境にありませんか?例えば、すごい理系が好きな女子学生も、男子学生は理系ばかりで、周りの女友達は文系ばかり選択しているのを目にすると、もしかしたら私の選択は違うのかなって思ってしまうとか。そういう男女の呪いは共学のほうがかかりやすい気がして」

治部:「それはそうでしょうね。女子高はそういうものから守られてますからね」

塚越:「だから共学ほどそういうジェンダー系の教育を学生にしていかないと是正が図られないっていうか、放っておくとそうなりやすいのではないかと」

あるべき論は実現しているという思い込みの罠

治部:「むしろ問題だと思うのは、知識と現実にすごいギャップがあることですね。

 多分、SDGs以降、いろいろ環境とかジェンダーとかいうようなことが言われるようになったので学生たちも知識として知っている。ただ、知識として知っていると問題自体はないと勘違いしちゃう。」

塚越:「なるほど。」

治部:「だけど現実にはギャップが存在するわけですよね。いろんな各種データで男女共同参画白書とか、その現実と、これまで自分が習ってきた「べき論」には、ギャップがあるということを伝えるところから教育が始まる。

 別の女子大学で講義したときも同じことが起きていて、女性活躍とかよく聞くし、ジェンダー平等から、そういう方向性はそうだと。けど現実はすごく違う。ハラスメントの話をするととてもびっくりする、まだこんなことあるんですか、とか、テレビドラマでしか見ないものだと思っていたとか」

塚越:「まさかそれが現実なんだと思わないわけですね。」

治部:「そう、学生たちはびっくりするんですね。

 習ってることと現実には違いがあるとか、まだ男女平等が達成されていないからこそこういう教育やってるということをしっかり伝えていく。規範の問題と現実の切り分けっていうのをしないと、学生たちは混乱しちゃうんです」

塚越:「伝えるべきは、あるべき論ではなく、リアルとのセットなんですね。」

空気を読むアラフィフ世代とありのままZ世代

治部:「また、おかしいことについて、私のようなアラフィフ世代は、仕方ないこととか、強い会社に弱い個人はかなわない、みたいな受け入れ方をしがちなんですけど、今の学生たちを見てると、おかしいことはおかしいって主張してきますね。

 そして、おかしなことがあったらSNSに書けばいいとか、いろんな解決法や手段がある。だから私もそれに乗っける形でこういう相談窓口があるとか、問題があったら録音しておくようにとか、そういうことを伝えています。」

塚越:「今はSNSを使って個人で発信できるから、あえて炎上を起こして社会をアップデートさせるみたいやり方も、世界のMeToo運動なども見てて、学生たちには身近なわけですね。」

治部:「私達の時代にはなかった方法ですからね。」

塚越:「学生たちがそういう選択肢を身近に持っていることを知らない企業の上位層が、入社したばかりの社員たちに対して何かマウンティング取ったりハラスメントめいたことをしてしまうと新入社員や若手社員たちから返り討ちにあうこともあるでしょうし」

治部:「会社を辞めちゃうでしょうね。

 また、インパクトがあったのは、内閣府が20代~30代の若い人向けに仕事と私生活どっちを優先したいですかって男女別に聞いた調査があって、男女ともに生活優先の人がすごく多かったので、それを学生たちに見せたんですね。そしたら、「いや当たり前です」と。」

塚越「でしょうねw」

学生たちのワークライフバランス観とは?

治部:「そこで、私は、「若いときは仕事を一生懸命やってキャリアを蓄積するとかそういう発想にはならないかな?」みたいな平成の発想で言ったら、「いや生きるために働いてるんであって、働くために生きているわけではありません」っていう反応も全員とは言わないんですけど、はっきり明確に男女問わず返ってくる。

ワークライフバランスみたいなものは、まだ出産とか全然考えない学生たちでも、友達を見ていて趣味などいろんなライフがあって、人として大事だって知っているし、はっきり言えるんですね。」

塚越:「大切な価値観ですね。」

治部:「また、働き方の授業で、「24時間働けますか」って、リゲインのCMを昔の価値観の事例として見せたら、誰も笑わないし、シーンとして、「ブラックですね」と言われて終了」

塚越:「バッサリですか」

治部:「そこで、昔の働き方と今の働き方について、ネット検索などして調べてみて、何かびっくりしたこととかおかしいと思ったことを探してみようと言う課題をやったんですね。例えば、職場ではもうタバコ吸ってないよね、とか。」

治部:「そういう昭和から平成の前半ぐらいまではよくあったことが、「おかしい」といって一刀両断されるという実態を企業の人がどれくらい知っているか。昔のようにその会社の名前がいいとか、そういうことで人をリレーションできなくなってきている」

塚越:「さらに今は売り手市場ですし、転職市場も活性化してますからね」

治部:「ただ、学生たちは、まだ働いたことがないので働いたら企業に染まる部分もあるかもしれないので、ちょっとそこは追跡調査してみないとわからないですね。」

塚越:「確かに、学生時代にこういうテーマをインプットした学生とそうでない学生がその後どうなったか、どう変わったかは調査で明らかにしていきたいですね。

 また、その企業や組織側が、こうした世代間ギャップやジェンダーギャップを分からないままおかしな発信して炎上してしまったという事例、よく治部さんはそういう炎上系のコメントもメディアに求められることが多いと思いますが、いかがでしょうか?」

企業のジェンダー炎上と学生たちのキャッチアップ速度

治部:「そうですね、企業は昔より炎上自体が減ったかは分かりませんが、そうならないように気を付けている企業は増えていると思います。

 これも授業の教材として学生に炎上コンテンツを見せたりするんですね。

 例えば消費財で女性だけが育児をやってる描写とか、当時は賛否両論だったようなものも、今、女子大で見せると賛否ではなくNGです。その変化が結構早いので、例えば三、四十代に聞いて賛否両論だったから、どっちでもいいんだって進めてしまうと、炎上案件になる可能性が高いかもしれない。」

塚越:「危ないですね」

治部:「さらにこのテーマに少し知識がある人と全然ない人では最初の反応は違うのですが、少し知識のあるクラスメイトや先輩と話したり、ネットで調べたりして、インプットがとにかく早い。」

塚越:「すぐにアップデート出来ちゃうわけですね」

治部:「そう、学生や若年層を舐めない方が良い。同じ商材で日本企業が炎上しているときに、アメリカ企業ではこんなCM出してる、なんて検索スキルが高いので、すぐに探して比較できちゃう。ブランドの毀損は想像以上なので、そこは常にこの表現でいいかっていうのはちゃんと検討しておかないとマズいと思いますね。」

塚越:「自治体はどうですか?」

自治体のジェンダー炎上事例

治部:「自治体の話で最近だと「尾道」炎上ですね。あれはなかなか凄かった。
(「尾道」炎上とは、広島県尾道市の妊婦向けチラシにおいて、妻の嫌な点などを聞いた夫へのアンケート結果をそのまま載せてSNSで炎上した2023年夏季前後の事案)

 実は尾道市の炎上で地元メディアから取材を受けた時、私は「最初はフェイクニュースかと思った」と答えたんです。そしたら、記者の方が意味がわからなかったみたいで。」

塚越:「フェイクニュースかと思うくらい、ヒドイ事案だという意味が分からないということですか?」

治部:「そう、ピンと来ていないのが分かったので、詳細な解説が必要になってしまったんです。メディアで働く人も無意識のジェンダーバイアスに気づいていない可能性があります。」

塚越:「地元のメディアが指摘できなかったら、野放しにされる可能性ありますね。」

治部:「その前の広島県の炎上のときは、別のメディアの取材だったんですが、その記者には詳細な解説をしなくても問題の意味が分かっていてすぐに伝わりましたね。」

塚越:「広島の炎上というのは「欲張り」炎上ですね?広島県が制作した仕事と子育ての両立冊子に「欲張り」という名前をつけてしまったという」

自治体の炎上案件の原因と対応法

治部:「はい、そうです。あの冊子は、私も全部読んだんですけど、中身はワークライフバランスについて、とても良く出来ている冊子でした。ただ両立を「欲張り」という言葉で表現し、込められた想いとの間にギャップがあった。」

塚越:「あの「欲張り」という言葉は、広島県が昔から県民の言葉として良く使っていたらしいですね。それを仕事と子育てとの両立にも使うこと自体、広島県庁としては違和感を感じなかった。」

治部:「問題の一つはチャンネルの問題で、広島県だけに紙で配ったら炎上は起こらなかったかもしれませんね。もう一つは冊子自体は次世代育成推進法とか中央政府がやっている施策に基づいて県で作ってるので問題になりにくいものでも、それを「欲張り」というフレーミングすること自体がはっきり言って時代遅れという意識の欠如。ネットで発信するものは、いかにローカル向けだとしても、県民以外にも見られるっていうことへの意識が及んでない問題があります。」

塚越:「さらに、ネットで配ってない紙面だけのものでも誰かがスマホでスクリーンショットしたものをネットに公開できる時代でもありますから、昔から配布していたものであっても、その都度、今の時代に合っているかどうか、慎重に検討したほうが良いですね。」

萌え系コンテンツが繰り返し炎上する理由

治部:「また、拡散されてるものが果たして本当に正しい情報かってのは情報の受け取り側も確認した方がよいです。

 先日も、拡散されていた情報に違和感を感じて、よく見たら「子ども家庭庁」とまで書いてあった。もしこの内容で「子ども家庭庁」がバックアップしているとすれば、大変なことだと思って、ソースデータまで遡ったら、「子ども家庭庁」の記載は無かったんです。」

塚越:「誰かが途中で加筆したんでしょうか。拡散は、その情報の信憑性に自ら加担してしまうので、拡散前に、情報の源泉まで戻って真意を確認しないといけませんね。

 自治体などの萌え系ポスターあたりも似たような炎上案件が繰り返される気がしますが、どうでしょうか?」

治部:「頻繁に炎上しますね。複数の論点が交錯していると思います。イラストそのものを描いたり楽しむことの自由と、それを広告として使用することが適切かどうかという論点と、自治体の場合はさらに税金ですから公共性の問題という、段階ごとに判断は分かれます。」

塚越:「企業も自治体も多様な視点で検討する癖をつけていかないと、昔からそうだからとか、いつものメンバーで検討したけど違和感を感じなかったからという判断では、意識変化のスピードが増している現在では、問題行動が繰り返されてしまうリスクがあるわけですね。」

家庭内のジェンダー教育について

塚越:「話は変わりますが、治部さんのSNS投稿を拝見していると、お子さんとのジェンダー関連のやり取りが興味深いんですが、お子さんとの家庭内でのやり取りで工夫されている点はありますか?」

治部:「あぁ投稿するものは、面白いと思ったものだけ載せているので、日常頻繁に起こっている会話というわけではないですよw それほど意識した工夫はしていないのですが、我が家では昆虫採集と呼んでますね。男だからとか女だからで理不尽なエピソードが見つかったら、家庭内で披露して観察するんです」

塚越:「採取して、観察する。あぁそれで、昆虫採集w 」

治部:「例えば、学校でこんなおかしなことがあったと子どもたちから話かけてきたり、夫がキッチンで「なんでこれはパパも使うのにママ向け表記なんだ」とかブツブツ言ってると、子どもがどれどれと覗きに言って、会話が弾んだりしてますね」

塚越:「旦那さんの愚痴は私も分かりますw 育児家事関連商品はまだまだ女性向け表記多くてカチンとくるときありますw
 また、私はこういう仕事をしているので、我が家の家庭内での男女役割分業は子どもも感じていないと思うのですが、外から男女の呪いを持ち込んでくるので、もうそれを祓うのが大変ですね」

治部:「え、例えば?」

塚越:「いやもう、いわゆるってやつですよ。我が家の子どもは三人とも男子なのですが、「その色は女の色だから嫌だ」とか「それは女子が使うもの」とか。友達とのやり取りや学校生活の中で自然に身につけてきてしまうんでしょうね。教育現場や社会全体で行っていかないと家庭内だけでは限界があるなぁと日々感じます。

保護者との間でも良く感じますね。PTAや学校行事でも、その役割はお母さんとか、それはお父さんお願いしますとかですね。」

ママ友パパ友という関係性の作り方

治部:「確かにそうですね。
 私、保育園や学校の保護者たちには、この仕事をしていることを積極的には伝えてないんですよね。性別役割分業を疑う、ジェンダーの視点で仕事をしているとなると、専業主婦世帯が多いような地域では敬遠されるだろうなという勝手な思い込みもあって。でも、情報社会ですから、バレちゃうんですよね」

塚越:「バレて困ることありましたか?」

治部:「この前の記事読みました~とか、あのメディアに出てましたね~とか声かけられてしまいます。

でも、色んな立場の人がジェンダーに関するモヤモヤを抱いているようで、ワーキングマザーだろうが専業主婦だろうが、敵対心持って声を掛けてくる人は少なくとも私の周りには今のところいないです。」

塚越:「ファザーリング・ジャパンにはマザーリング・プロジェクトというのがあって、父親支援のNPOの中に、母親支援があるんですが、そのコンセプトは、「それぞれの時間にいるママたちが笑顔に元気になれるように」なんです。専業ママもこのあと働くかもしれないし、働いているママも仕事を休むかもしれない。でもどの時間にいるママも笑顔でいてほしい、ということです。ママのいる場所や時間は固定的なのではなく、流動的と考えれば、よくメディアが「働くママvs専業ママ」という対立構造で煽る意味ってないと思うのです」

治部「そうですよね。私はこれまでママ友っていうのも積極的には作ってこなかったのですが、気づくと居るんですね。どうしてだろうと考えた時に、「私たちって、女性だし、ママで一緒だね」から始まると、徐々に「違い」に気づき始めて減点方式になってギクシャクしてく気がするんですが、私の場合は「私とあなたは違うね」というところから始めていたら、徐々に「同じ」ところも見えてきて、少しの「同じ」に親近感も沸いて頻繁に話せるようになってくる。」

塚越:「いいですね、まさにダイバーシティの観点、「違い」を許容するところから始める人間関係ですね。そもそも人間は個性的で、それぞれ違う。「みんな違ってみんな良い」なんて教育がある一方で、「みんなで」「一緒に」「仲良く」を日本では相変わらず強調しすぎで、保護者同士でもその延長線上で関係性を築いてしまうと息苦しくなりそうです」

治部:「親同士のしがらみ、親子、地域、性別のしがらみなど、こういったものから解放して、子どもたちが自分の選択でイキイキと生きていける社会を作っていきたいですね。」

塚越:「同感です、一緒に作っていきましょう。」

インタビューを終えて

治部さんと初めてお会いしたのは、私がファザーリング・ジャパンの男性育休推進「さんきゅーパパプロジェクト」リーダーとしてパパ産休推進フォーラムを2011年夏に開催したときです。育休を取ったパートナーとその妻として治部さん夫婦をお呼びして、日本における男性育休推進に必要なことを議論しました。当時、男性の育休取得率は1.38%。治部さんは男性の育休を「静かなる革命」とお話されたのが印象に残っています。

その後、イベントでお会いしたり、東京都男女平等参画審議会委員や外務省国際女性会議WAW!有識者会議メンバーでご一緒させていただいたりしてきましたが、治部さんは、専門性と現場感覚のバランスに優れていて、切れ味の良い発言は、お会いするたびに磨きがかかっていてスゴイです。

今回のインタビューで、子どもの機会ギャップ解決が最上位という話を伺えて、同年代の子どもを持つ親としてもひどく共感し、自分の子どもたちが大人になる前に何とかしたいという思いがさらに強くなりました。