「働かないおじさん」が残り、エース級社員が辞める日本企業のこれから
~白河桃子昭和女子大客員教授・少子化ジャーナリストの視点(2/3)~
婚活、妊活の提唱者で、昭和女子大学客員教授、相模女子大学大学院特任教授などや「一億総活躍国民会議」「働き方改革実現会議」など多数の公的な有識者議員を務めながら、「働かないおじさんが御社をダメにする ミドル人材活躍のための処方箋(PHP新書2021年)」など多数の著作活動も行うジャーナリスト・作家の白河さんが解決したいギャップとは?
(前回)人的資本開示で明るみになった日本企業の男女賃金ギャップの構造
□人的資本開示で男女賃金格差の蓄積が明るみに
□わが社はもともと男女平等だ!という日本の経営者が多い!?
□ミレニアル世代の女性が保守的になりがちな理由
□学生たちが白ける「女性活躍推進」という無理ゲー
□人生を生き急ぐ20代女子とマイペースな20代男子の傾向
□学生時代に伝えるべきキャリアデザインの在り方
エース級の社員がなぜ会社を辞めるのか
白河:「そういう意味でも、男性育休取得率が公表企業(従業員1001人以上)で46%(厚労省イクメンプロジェクトより2023年7月末に発表)は良い変化だし、その中で企業風土が変わるっていうのが女性活躍を通っての全員活躍の鍵だと思っています。
企業の男性を見ると、転勤もできます!長時間労働できます!って、入社してからプロパーで一斉に競って頂点を目指していく状態が昭和のころと変わっていません。「休まないのが偉い」「弱みを見せないのが偉い」とお互いマウンティングする悪しき男性性で競う企業文化は、生産性に寄与しない、有害であることがすでに経営学的な研究として立証されています。一部の人を勝たせるためにほとんどの人を犠牲にするこの仕組みで、振い落された人たちは「働かないおじさん」になっていくわけですよ。」
塚越:「まさに白河さんの著書「働かないおじさんが御社をダメにする」ですね。日本ってまだまだ年功序列だからその働かないおじさんに高い給料払ってますしね。」
白河:「最近、openwork(国内No1社内口コミサイト)を見ててわかるのは、若手がなぜ会社を辞めるのかというと、企業のミドル(中間管理職)が後輩たちに全く希望を与えられていない。生き残る1人の価値を出すために大勢の人を犠牲にする文化というのは、後ろから来る人たちを奮い立たせるどころか、萎えさせるわけですよ。」
塚越:「私も新任課長・新任部長研修講師をやるときに紹介する「イクボス」の定義で強調するのは、「自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司」という最後の部分。働き方改革とか言って、部下を定時に帰す、有休を取らせるけど、仕事量は変わらないから管理職である自分が全部被るみたいなことやってると、あなたたちは部下のためにやってると思ってるかもしれないけど、部下たちは「管理職しんどそう」「あんな管理職になりたくない」になるから、管理職になる手前で会社辞めるよ、と。「イクボス」は「あんな管理職になりたい」ボスですからね。
コロナ禍を経て、有名な大企業でもエース級が会社を辞めていく事例が本当に増えていますよね。」
白河:「そうそう、本当にそうです。企業にとっては大きな課題です。」
塚越:「それ何でかって簡単で、管理職が見えてくるとなりたくないから会社そのものを辞めちゃう。企業内の生き残り合戦で今回は勝てるかもしれないけど、次負ける可能性がより高まるなら見通しがないので、だったらこんな古い企業の仕組みで続けるより、新しい仕組みを自分で作っていけるところで挑戦しようと。エース級だから自分でできる人だろうし、今は売り手市場でもありますから。 そこに気づいてない企業の上位者たちがかわいそうというか、手塩にかけて育ててきた有望な人材が収穫間際で居なくなるショック。でもそういう社内の仕組みが硬直化したままなんだからそうなっちゃうよね、と思いますね。」
男性育休推進と分割取得で男女キャリアをフェアにする方法
白河:「だから今、NECさんなどは、カルチャー改革を熱心にやってますよね。男性育休は大きな意識変化、企業文化を変革するチャンスですよ。
多くの男性が本当に2週間以上の育休を取る。会社に不在な人がたくさん出る。それでも仕事を回していく。働き方の工夫もしなきゃいけない。育児経験の男性が増えれば、育児女性への理解者も増えるんです。」
塚越:「私が育児・介護休業法の改正セミナーで男性育休推進は働き方改革やチーム戦略の起爆剤と伝えているのはまさにそれですね。
また、受講者に女性社員が多いときに強調するのは、女性社員は分割制度を使いましょうと。今、デフォルトが育休1年間を女性が取って、短時間勤務で復帰みたいな、「なんとなく」そうなっている。男性が2週間や1ヶ月育休取るとしても、女性の育休に乗っかるぐらいのイメージ。だから、女性は「いや夫が育休取ってくれれば嬉しいけど、私の育休期間に影響ないよね」って思い込んでる。
でも今回の改正では、子どもを保育園に入れるまで夫婦でバトンタッチしながら繋いでいくって選択肢を作ったわけですから、産後に心身が整ったら妻は仕事にすぐ復帰して夫が育休を取り、夫の繁忙期は、妻がまた育休取るってケースを強調していく必要があると思ってます。女性は分割しながら育休取得期間を短くしていき、男性はこれまでよりも育休期間をトータルで長くしていく。これで初めて、男女のキャリアがフェアに形成できるようになるんですよね。」
白河:「そう、これは女性が専業主婦だったとしても変わらないですよね。子育てを一人でやるのと、二人でできるようになるのでは、この先全然違ってくるから。」
塚越:「そうなんですよ。まさに我が家は私が育休取ったときは、妻は専業主婦でしたが、私が育児家事出来るようになって、妻が働きたいという気持ちになったときすぐに妻は職場復帰できるようになる。夫の育児家事参画は、妻のキャリアの選択肢を広げるってことは、私も実感しましたね。」
白河:「仕事も子育ても夫婦で出来ることを学生時代に知ることも大事ですね。」
ワークライフバランスを学んだ学生がモーレツ会社に就職する謎
白河:「私はスリール(株)のワークライフインターンの学生にライフキャリア講座をずっとやっていました。妊娠適齢期のことや、いかに子育てと稼ぐことをチームでやることが重要かを伝え、さらにスリールは共働き夫婦の家庭をインターンで経験するでしょ。そうすると受講した学生たちは、結構マッチョな、ガシガシ働かせるような企業を希望して就職していくんですよ。」
塚越:「ワークライフバランスを学んだ学生は、ワークライフバランス取れないような企業をまず選択するんですね。」
白河:「いざとなれば、自分は誰かの助けを借りることができると知っていると、挑戦が出来るようになるんでしょう。結婚でパートナーの助けを得られる、子育てを助けてくれる他人もいる。転職もできる、スリールの先輩たち、同期の仲間たちに助けてもらえるってことを知って卒業するのと、それを知らずに卒業するのでは、全く違ってくる。」
塚越:「なるほど、それはネットワークの構築や選択肢の多様性から自分のキャリアに見通しがあると、果敢に挑戦できるようになるわけですね。挑戦して駄目だったとしても、違う方向に行けばいいんだっていう柔軟性を獲得しているから。」
白河:「こうした挑戦しても失敗しても大丈夫なんだという、安心感・安定感みたいなものを学生時代に見せておくことが大事なんでしょうね。だからそれを会社に入ったら会社の先輩が見せてあげない限り、その会社の風土は、全員活躍どころか寝ずに働いて休まない人しか上に行けないよ文化になっていきますよね。」
塚越:「そうした選択肢を持った学生がモーレツに働かせる会社に入社して、モーレツに仕事して成果を出していくと、上司や先輩は、こいつは自分たちと同じモーレツ系で見込みがあるなんて思い込んで無理させたりすると、簡単に辞めちゃいますね。だって、こんな会社にこだわらなくても選択肢が沢山あるから。でもそれを上位者は「だからZ世代はダメなんだ」なんて言っても、アップデートしなきゃいけないのは上位者のほうだったりする。
沢山の選択肢のインプットを若いうちからしていくってのは、キャリアデザインのある大学やスリールのようなところに行かないと不可能なんでしょうか?」
ライフデザイン講座を女性だけが受講する問題点
白河:「学校もそうだけど、インターンは良い機会になると思いますよ。最近は真面目な、ちょっと長めのインターンさせてくれるところもあるし、ベンチャーやNPOでもいろんな機会が沢山あります。」
塚越:「ただ、インターンは「やりがいの搾取」の搾取系というか、え、その賃金でそこまで働かせちゃうの?ってところもあったり、」
白河:「逆に学生をお客様として扱っちゃうインターンとかね。選択肢が多くなってきただけに、気をつけなきゃいけない面はありますよね。
私が客員教授をしているIUというIT専門職大学があるんですが、そこでは、インターンと起業を必須項目にしていますね。講義だけでなく、やってみる、ということころまで学生時代に体験させるんです。ただ、男性学生が多いということもあって、ライフデザイン講座までは無いんですよね。」
塚越:「男子学生には仕事に関わる講座を提供して、女子学生にはライフデザイン講座を提供するというのも違和感ありますよね。特にこの日本において、ライフデザイン講座は男女関わらず必要な講座なんじゃないでしょうか。」
白河:「前に私が女子大学でライフデザイン講座をやっていたら青学の女子学生が受講しに来ていて、理由を聴いたら、共学のキャリアデザイン講座には、女性のライフデザインを扱ってくれないからだ、と言っていたんですよ。共学のキャリアデザイン講座にも、ライフデザインの話を入れていくべきだと思いましたね。」
塚越:「先述のサイボウズの男女意識の話で、男性は仕事ばかり考えていてライフ考えてないって話ありましたが、男性が仕事ばかり考えちゃう原因の1つには、学生時代からライフデザインの話をインプットされる機会がないからでしょうね。共学の大学でもライフデザインのプログラムは必要でしょうし、入社してからも企業から提供してく必要はありそうです。ただ、大学も企業も、そうしたプログラムを作る意思決定層は、男性ばかりでしょうから、そこの重要性を感じていない可能性は高いですね。」
白河:「今の意思決定層は、本音としては男性は身を粉にして働くか、会社に尽くしてくれる人がいいと思っているから。」
塚越:「とはいえ、いま、身を粉にして働く若者なんて稀有ですから、それに気づかず未だに「身を粉にする」を理想にしている意思決定層がいるんだとすれば、今後も離職者は増える一方でしょうね。むしろ若者に挑戦させたかったら、ライフデザイン講座をやって、両立している先輩たちと会わせて、安心・安定がバックにあることを示したほうがよっぽど良さそうです。」
「働かないおじさん」が大量生産されるカラクリ
白河:「身を粉にしても、勝ち上がった一部の人以外は、ほとんどが脱落していく企業の仕組みですからね。」
塚越:「それで「働かないおじさん」とか揶揄されるわけですよね、酷いですよね。」
白河:「そう、「働かないおじさん」の本を書いたのは、女性が管理職になりたがらないのは「女性の意識の問題」だという論調が多かったから、いやそれは「構造上の問題」ですと言ってきた一方で、働かないおじさんが沢山いるのは、「おじさんの意識の問題」ではなく、これも「構造上の問題」だ、と言いたかったんです。そうじゃないとフェアじゃないし、本質を見極めないと、変わることもできない。」
塚越:「いや本当に、構造上の問題だと思います。しかも日本企業の社員平均年齢って45才超えてますよね。まさに私の同世代のミドル以上が企業でも国でもボリュームゾーンなので、ここが活性化しないと危機的なんですよ。働かないおじさん、とか言われている場合じゃない。」
白河:「一番お金もらってるけど一部の人しか働いてない層、しかも今後も20年以上働くんですよ。」
塚越:「本でも指摘されていましたが、企業の構造が変わらないと「働かないおじさん」は再生産されると。その仕組みやデザインを変えて、新しい文化醸成をしないと、今の30代40代も「働かないおじさん・おばさん」になっていく。」
白河:「もう1つ問題は、最近は若者や子育て世代の話はよく聞いてるんだけど、中堅の話はほとんど聞いてくれないという声をたくさん聞くんですよ。そこはやっぱり聞かないと駄目ですね。」
塚越:「その人たちが安泰でいられる仕組みじゃなく、活性化する仕組みにするためには、中堅・ミドルの声をもっと拾っていかないといけませんね。」(3/3へつづく)
(次回)~白河桃子昭和女子大客員教授・少子化ジャーナリストの視点(3/3)~
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