家事・料理ギャップ解決の先にある「自分らしく生きる」未来

~滝村雅晴(株)ビストロパパ代表取締役の視点~

2023年3月19日で、17年間毎日連続レシピブログを達成し、NHKなどの料理番組出演、ビストロパパオンラインクッキングスタジオの展開、NPO法人ファザーリング・ジャパン「トモショクプロジェクト」リーダー、日本パパ料理協会会長飯士など料理を通した活動を幅広く行っている滝村さん。滝村さんから見る日本の食に関連するギャップとは?

塚越:「滝村さんの解決したいギャップは何ですか?」

滝村:「元々男性と女性の家庭内の家事・料理のギャップを解決したいと思って起業したので、それは永遠のテーマです。

ただ活動してからもう15年経って空気感が変わってきました。」

塚越:「というのは?」

滝村:「家事・料理を自然にする父親が増えてきた。なので、家庭によっては、家庭内の男性と女性の家事料理ギャップは激しくない。

一方で、全くやってない父親は相変わらずいるので、やっている家庭とやっていない家庭のギャップが以前より開いている印象ですね。」

塚越:「滝村さんの料理レシピサイトや料理動画にアクセスするような人はすでにアンテナが立っている人だと思うのですが、関心がない層に対してアクセスする方法やアイディアはありますか?」

家事育児に関心のない「圏外パパ」へのアプローチ

滝村:「関心がない層というのは、いわゆる、NPO法人ファザーリング・ジャパンでもよく言う「圏外パパ」(スマホ等で電波の外にいる圏外に例えられ、育児家事の情報をキャッチするアンテナが立っていない父親)ですよね。

圏内パパたちすら、誰もが子育て初心者ですし、誰もが家庭に入って子どもに料理を作るのは初心者。それは仕方がないことです。」

塚越:「独身時代や夫婦時代に料理をしていても、第一子の子どもに料理作るのは初めてですね。」

滝村:「こんなふうに料理をするといいよって、僕自身がモデルケースになって、圏内パパたちと一緒にスタートして一緒に育ってきた感はあります。

ただ、活動当初から思っているのは、圏外パパはいつまでたっても圏外パパなんだろうと。
一方、圏外パパのパートナーであるママは、僕のほうにアンテナが向いていることはよくあります。」

塚越:「育児でも、妻・ママから夫・パパへのアプローチは強力ですよね。実際、妻からの育児連携期待が高いほど夫は育児に参画するという先行研究もあります。家事もそうでしょうね。」

滝村:「そういうママには僕から情報やノウハウを伝えて間接的に圏外パパへのアプローチをする方法はあります。ただ、ママも二極化しています。」

ワンオペ育児家事をさらに極めようとするママたち

滝村:「圏外パパを何とかして引き入れようとするママと、圏外パパを諦めてワンオペ育児家事をさらに極めようとするママがいますね。時短簡単家事なんて後者の類に近いです。」

塚越:「なるほど、ワンオペを追求するマーケットがあるわけですね。」

滝村:「そこを協力して応援してあげるのもいいけど、僕はモヤモヤするわけです。」

塚越:「パパ料理研究家ですから、パートナーであるパパが変わるアプローチは捨てたくないですね。」

滝村:「とはいえ、家事は毎日のことなので、究極はオペレーターにならなければ乗り越えられない課題はあるので、それには答えてあげつつも、どっかのタイミングでパパのアンテナが入るといい。そんなパパママアプローチは大事です。

ところで、僕の最近の名刺を見てください。何か変化に気づきますか?」

塚越:「名刺ありがとうございます。

え、変化ですか?・・・あ、あれ?パパ料理研究家では無くなってるじゃないですか!」

滝村:「はい、パパ料理研究家から「パパ」を取って、「料理研究家」になったんですよ。」

塚越:「え、なぜですか?」

パパ料理研究家から「パパ」を取る決意をくれたプロデューサーの問い

滝村:「今、世の中の空気はジェンダー平等ですよね。
一番のきっかけは、出演しているNHKさんの「かんたんごはん」の収録です。プロデューサーからパパ料理研究家の「パパ」を取っていいかって言われたんです。

つまり、これまでパパ向けの料理レシピを作ってるわけではないし、ジェンダー平等の流れもあってパパ表記を続ける必要がどれだけあるのか、と問われた。

確かに起業当初は、いわゆる「イクメン」って言葉が流行る前から、父親が料理をしている家庭は少ないという課題を何とかしたいというのはあって、「パパ」×「料理研究家」でブランディングしていた事実もあった。
でも今は、あえてパパ料理研究家って表記してしまうと、これから家族を形成しようとしている独身の方々や高齢者家族、すでに料理をしているパパママから見ると「この滝村って人は、私の課題解決をしてくれる人ではないんだ」って思われてしまうデメリットの方が大きいかもなと。」

塚越:「なるほど。名刺を改めて見ると「株式会社ビストロパパ」はそのままですから、肩書を「パパ料理研究家」にしなくても、パパ料理のコンセプトは伝わりますしね。」

滝村:「だから「ビストロパパの滝村です」と言って、世の中のお父さんを含め、料理を通して、多様な家族の過不足を良くする仕事をしてますっていう人になればいい。」

塚越:「環境の変化に合わせて、改めて自分と会社の存在意義を考え直したんですね。滝村さんって、もともとはデジタルハリウッドの広報で、ブランディングの専門家ですしね。」

改めて問い直したビストロパパのブランディングとは

滝村:「はい、そこで、自らパーパス・ブランディングをしたんです。https://www.bistropapa.jp/information/philosophy/

コーポレートメッセージ「Eat Together Everyone Smiling」で、みんなで一緒に食べたら笑顔になるよと。パーパスは、「家族や仲間と、食卓を囲む回数は有限」です。」

塚越:「このパーパスは、娘さんを難病で亡くされ辛い体験をされた滝村さんの強い想いですね。」

滝村:「そして、ミッション「料理とトモショクで、みんなを笑顔と健康に」。ビジョンは、「働きながらトモショク/共食できる世の中にする」「パパ料理を当たり前にしオヤジの味を文化にする」」

塚越:「専業主婦世帯より共働き世帯が圧倒的になった日本に適したトモショク。そして、昔から言われているオフクロの味だけでなく、オヤジの味を文化にする、は平成・令和時代の文化醸成ですね。」

滝村:「さらに「誰もが自分らしく生きる世の中にする」をビジョンに追加しました。
僕は、これを凄く大切にしたい。1人1人には個性があって、自分らしい生き方っていうのが本来はできるはずなのに、周りからの期待や自分自身でもリミットをかけてる人が日本ではあまりにも多い気がして。誰もがYouTuberになっていいし、ミュージシャンになってもいいし、料理研究家になってもいい。」

塚越:「そのとおりです。弊社の「ギャップ解決」も類似のビジョン実現のためですが、料理との関係でいうと?」

家事料理ギャップから失っていく「自分らしさ」

滝村:「例えば、自分らしく生きたいのに、ワンオペ家事を押し付けられていると、自分の時間が減りますね?」

塚越:「なるほど。」

滝村:「結局、誰もが料理ができるっていう世界は、誰もが誰かの時間を作ってあげて自由にしてあげることができてるんですよ。

それをワンオペで誰かだけに負荷がかかるということは、自分の自由な時間を潰されてるわけなので、結局その人は自分らしく生きられないかもしれない。」

塚越:「あー、わかります、家族料理を作るときの私の日々のモヤモヤが言語化された気分です。

動画やゲームなど好きなことをして過ごしている家族を横目に、夕食を作っている自分がモヤモヤするのは、私だって、やりたいことあるのにって、自分の時間を潰されていると感じるからですね。」

滝村:「例えば、自分しか夕飯を作れる人がいないから先に帰らざるを得ない。本当だったら、仲間と一緒に同窓会に行きたかった。会社のお別れ会・送別会に出て、お礼を言いたかったのに。

また、子どもをお迎えに行かないといけない。夫は料理が出来ないから、迎えにいったところで、そのあとの夕飯を子どもに提供できない。だから私が迎えに行かないといけない、などなど。
このママは自分らしく生きられなくなっていきます。」

塚越:「加えて、日本って、家事代行やシッターなどの第三者サービス利用が少ないですよね。パートナーに頼れず、自分もしんどかったら、誰かに任せる方法もあるはずなのに、自分がやらなければっていう「呪い」が強い。共働きで稼いでいるなら、自分や夫婦の時間を作るためにお金を払ってでも家事や育児を誰かにお願いしてもいいのに、稼ぎは子どもに使いたい、自分や夫婦の時間のために使うなんてもったいない、となってしまいがち。
長らく所得が上がらない経済状況に加えて、周囲を気にする文化、過去の家族像縛り、情報のアップデートにも課題があるように思います。
このあたりは、弊社のリサーチ、情報提供・発信などで「呪い」から解放していけたらと思っています。」

料理・食育のDXとウェルビーイング

滝村:「残りのビジョンは「デジタル食育/オンライン料理教室を誰もが活用できるようにする」「知産知消ライフでウェルビーイングを高める」です。

今、デジタル食育やオンライン料理教室がすごく進んでいます。例えば、農水省ルートで全国の食育をしている管理栄養士さんたちに対して、僕が講師になってデジタル食育の推進方法を研修してるんです。」

塚越:「料理や食育のDX化ですね。」

滝村:「現場で料理しかやってこなかった栄養士さんは、デジタルへの苦手意識がすごい。でも、受講する子どもたちにとってデジタルは当たり前。

僕は365日、17年間、レシピブログ書いてきましたから、Google検索したら全部出てくる。

デジタル苦手だからといって、手書きのかわいいイラスト付きのレシピでもいいんだけど、手書きは毎回描かないといけないんですよ。
さらに、紙に書いたアナログのレシピ、もう100冊になるんです、って方もいらっしゃるんですが。。」

塚越:「紙だと検索が大変。探せそうにないですね。」

滝村:「それに使い回しもできない。デジタルを活用することで、毎回毎回の手書き時間が削減されて、皆さんの活動範囲が広がるし、デジタルで公開していればあなたが寝ている間も誰かにレシピが伝わる。このギャップを解決してあげたいですね。」

塚越:「知産知消ライフでwellbeingを高めるってのは、地産地消、つまり、近いところの農産物は近いところで消費しようって話ですか?」

滝村:「それもありますが、知り合いとか仲間が生み出したものを、その繋がりで消費する、そういうライフスタイルはウェルビーイングを高めると思うんです。」

塚越:「先行研究から導かれているWell-being向上の条件の一つに「人と人の繋がり」がありますからね。食べ物を通して実現するわけですね。」

滝村:「僕も木更津で畑や田んぼを借りて、野菜などを育ててますが、いかに作物を作るのが大変か分かるし、自分や仲間が作った農作物なら、子どもたちも残さず食べるようになって、なんか今日も生きててよかったって思えることがWell-beingを高めるんじゃないですかね。」

塚越:「身体もココロも健康になっていきそうです。皆さんがここに関心を持てば健康ギャップも解決に向かう気がしますね。」

ダイエットと健康目的が続かない本当の理由

滝村:「ただ、ダイエットのために何かをすると続かないのと一緒で、健康のために何かをするっていう軸は、全く楽しくないから続かないんですよ。健康は全部結果だと思います。」

塚越:「なるほど、確かに。」

滝村:「だから、畑が楽しいよとか、家族で農業体験したら取れたての野菜ってこんなに美味しいんだ、とか、こうしたポジティブな体験から始める。すると、そういうのに興味を持っている人たちと出会って情報交換が始まる。こういうご飯の炊き方したら美味しいよとか、海苔が美味しいだけでおにぎりって美味しいんだよとかね。その体験から生まれる関係性っていうか、コミュニティが大事なんだろうと思います。」

塚越:「健康経営に取り組む企業も増えてますが、企業において出来ることはありますか?」

滝村:「健康診断の受診率上げるとか、その診断のために直前だけ健康的な生活を送るみたいなことでは表面的ですよね。たとえば、健康経営のために19時からオンライン料理教室をやるとなれば、残業せず帰宅してご飯作る準備をしないといけない。家族でトモショクできますよね。オンライン越しに社内メンバーとトモショクできるかもしれない。また、会社の人とランチを一緒にトモショクする。趣味の話をしながら仕事以外で繋がっていく。こうした食を通した繋がりやネットワークが健康に繋がりWell-beingに繋がり、健康経営になっていくのではないでしょうか?」

塚越:「食を通した楽しい体験の結果として、健康にもよし、経営にもよしとなる。」

滝村:「また、健康って一概に言えなくて、身体の事情は一人ひとりみんな違う。あなたにとっての健康、私にとっての健康みたいなものを自分でちゃんと見つけられることが大切。健康目的で家族が巻き込まれる不幸な事例も多発しますしね。」

塚越:「健康で巻き込まれる不幸な事例とは?」

家族を不幸に巻き込む健康の呪縛

滝村:「例えば、玄米が身体に良いと聞いたママが毎日玄米を炊き始める。美味しい炊き方をして美味しく食べる玄米はいいんですけど、あんまり美味しい玄米の炊き方にたどり着かずに、家族みんなは白米が食べたいのに、ってストレスを感じ始めるってのは、逆に不健康なんじゃないですかね。」

塚越:「美味しい炊き方を会得し、美味しいから玄米を続けるなら良いけど、健康目的から玄米を続けようとすると、美味しいは二の次になるし、美味しい玄米の炊き方にまで辿り着きにくくなる。巻き飲まれた家族も辛くなるリスクがあるわけですね。逆に、美味しければ、家族は白米でも玄米でも良いかもしれない。」

滝村:「そう無理はしないでほしいし、巻き込む前に家族とコミニュケーションですね。そういう意味では、好き嫌いに関しても、僕はフリーなんですよ。残さず食べなさいっていうけど、やっぱり味覚は個人差ありますから、食べたくないものは食べられない。特に子どもたちの味覚は大人のそれと全然違う。」

塚越:「我が家の子どもたちも3人とも好みが全然違うんですね。下手すると朝ごはんは三種類作らないといけなくなる。最初はわがままなのかと思った時期もあったんですが、ある別の機会にアレルギー検査したら、それぞれ子どもたちが苦手だというものは、アレルギー数値が高いものばかりだった。あぁ本当に美味しく感じてなかったんだなと、反省しましたね。」

滝村:「そう、アレルギー問題もあるし、大人と子どもの味覚差もある。熱いとか辛いとか、しょっぱすぎるとか、噛み切れないとか。特に味覚の酸味と苦味っていうのは、酸味が腐敗の味、苦味は毒の味。五つの味でも、自然界にある酸味と苦味っていうのは小さな子供がそもそも美味しくないようにできてる。
だから唐揚げでお父さんがレモンなんかかけたら、子どもが嫌がるわけですよ。」

塚越:「あるある!」

滝村:「そこで互いにストレスを溜めない。」

塚越:「今は学校でも「残さず食べなさい!」は止めていますよね。でも、小さな頃から親や学校からその教育を受けてきた世代が親をやってると、どうしても自分の子どもに「残さず食べさない!」をやってしまいがち。まあ、最近は、SDGsのフードロスの観点から「残すな」とは言えますけど、食に関する親子のアップデートは必要ですね。」

滝村:「はい、食に関するギャップ解決、一緒にやっていきましょう。」

インタビューを終えて

滝村さんは、ファザーリング・ジャパンで知り合ったパパ友で、私のパパ料理にきっかけをくれた料理の先生でもあります。そのときに知ったパパ料理レシピ「エスニックライス」は10年以上経った今でもわが子どもたちに愛される「オヤジの味」です。

愛娘を難病で亡くされたとき、私も妻と葬儀に参列し胸が引き裂かれる想いをしたのは今でも忘れませんが、そこから滝村さんの「パパ料理を推進する」パワーはさらに加速し、現在の「料理研究家」に深化できたんだろうと今回のインタビューで感じました。

滝村さんが描く、料理を通して叶えたい未来は、きっと遠くから見守っている娘さんに見せてあげられる、そう信じて食に関するギャップを一緒に解決していきたいと思います。